■ PRANJ同時多発テロレポート3 NY・ワシントンDCより (2001年10月2日JMM掲載)
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▼INDEX▼■ PRANJレポート NY・ワシントンDCより
■ 中村美千代 :在米ジャーナリスト
■ 岩田健太郎 :ニューヨーク市ベスイスラエルメディカルセンター感染症科臨床フェロー
■ 村上博美 :ESI 経済戦略研究所 研究員
■ 渡部 恒雄 :CSIS 戦略国際問題研究所 主任研究員
過去2回の同時多発テロPRANJレポートに関して沢山の方からコメントやご意見を頂
きました。今回はそれをふまえて再度レポートという形にします。読者の皆さんから
のご意見は http://pranj.org
に掲載してありますのでそちらをご覧ください。
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■ 中村美千代 :在米ジャーナリスト
「イスラム原理主義やパレスティナの事情を考慮して日本は中立であるべき、何もす
べきではない」という意見があるが、あえて言わせてもらえば、このような意見を述
べる人達は日本が自由貿易主義社会(かつての西側諸国)に属しているという意識が
薄いのではないだろうか。日本は自由貿易主義社会に属し、日米安保があるからこそ、
経済的繁栄を享受してきたのは紛れもない事実なのである。PRANJのメンバーが言っ
ているように、日本は「第三者的な評論家のような」立場をとるべきではないし、私
はとることはできないと思う。日本にもテロリストが入国している可能性があるとい
う報道もあった。日本が今後米国と同様にテロリストのターゲットになる可能性は十
分にある。
また「日本は中東和平の仲介役をするべき」という意見があるが、これもナイーブな
発想だと思う。今まで中東問題に全く関わってこなかった日本がこの非常事態時に何
ができるというのだろうか。
小泉首相が、時期は少し遅かったが、訪米しブッシュ大統領に「テロリズムと闘う」
という明快な姿勢を示したのは良かったと思うし、またニューヨークの現場を訪れ、
ニューヨーク市長と州知事に支援を約束したのも良いことだと思う。問題はこれから
どのような形で何を協力するのかということだ。
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■ 岩田健太郎 :ニューヨーク市ベスイスラエルメディカルセンター感染症科
臨床フェロー
「バイオテロリズムについて」
私はニューヨークで臨床感染症家になるべくトレーニングを受けていますが、確かに
ニューヨークの一般の医療従事者はバイオテロリズムに関する知識があまりありませ
ん。そもそもFBIはいままで100件以上ものバイオテロリズムの可能性を検知し、
捜査していますが、オレゴンでカルト的宗教団体が細菌をばら撒き、下痢症が蔓延し
た一件を除き、いわゆるテロ行為による生物兵器の事例を米国は経験していません。
とはいえ、私たちを含む感染症科の人間はバイオテロリズムの起きる可能性を常に考
慮にいれてきました。私の同僚は今回のテロで急に有名になったセントビンセント病
院の救急班に毎年バイオテロリズムのレクチャーをしていました。米国疾病管理セン
ターはテロの対象として用いられる可能性のある生物兵器をカテゴリーごとに分け、
その対策も提示しています。
日本の731部隊の研究資料が全て保存されている、といわれる陸軍フォートデト
リックのホームページには170ページ以上ものバイオテロリズム対策マニュアルが
あり、識者の間ではかなりの認識があったのです。ニューヨークタイムズは日本の
A新聞に似て重箱の隅をつついてお上の批判をすることを喜ぶ癖がちょっとあります。
炭素菌や天然痘のワクチンが一般に出回っていないのは、対策を怠っていたというよ
りは、その効果に対する研究結果が確定していなかったから、というほうが正確かと
思います。もっとも今回のテロでワクチン整備は大きな課題となるでしょうし、研究
も早まるでしょう。
米国疾病管理センターが「カテゴリーA」としている生物兵器の中で、最もその使用
が恐れられ、また使用の可能性の高いのが炭素菌です。炭素菌は米国では70年代か
らたった3例しか病気の発症が報告されていない、稀な細菌です。皮膚の感染を起こ
し、皮膚を真っ黒にしてしまうので有名ですが、空気中にばら撒くと口から肺に入っ
て肺で感染症を発症します。潜伏期間は1−5日間ときわめて短く、いったん症状が
発症すると死亡率は少なくとも80%といわれる恐ろしい病気です。
この病気にはいくつか治療薬が確立されています。もくもくと煙を上げる貿易
センタービルを見ながら私は一錠抗生剤を飲みましたが、これは飛行機の中から炭素
菌がばら撒かれるのを恐れたからです。実際には翌日疾病管理センターからバイオテ
ロの可能性は否定され、最悪の事態を恐れていた私たちはほっと一息ついたのでした。
今回の事件ではビルの粉塵から呼吸器症状をきたす人が多くでましたが、素人では、
いや医師ですら炭疸症と区別できる人は少なかろうと思います。今回テロリストが飛
行機に菌を持ち込んで、それをばら撒いていたらどうなっていただろうと思うと今で
もぞっとします。
そもそも米国でこれほどバイオテロリズムに対する危機感が高まったのは、オウム真
理教が実験室に炭疸菌やボツリヌス毒素を隠し持っており、8回もこれでテロ行為を
企んでいたからに他なりません。日本はオウムから何を学んだでしょう。バイオテロ
リズムが起きたとき、それに迅速かつ正確に対応できる団体、個人がどのくらいいる
のでしょうか。ジュリアーニ市長は今回の事件では獅子奮迅の活躍を見せましたが、
これは彼がものすごい頭の回転の持ち主で、正確勝つ迅速な判断力を見せた、という
だけではないと思います。93年以降、彼の頭にはテロが起きたらどうしよう、すぐ
街を封鎖して退避命令を出し、ああしてこうして、というプランを日夜考え、頭の中
でイメージトレーニングしていたからに他ならない、と思うのです。これができてい
る日本人が果たして何人いるか。私には大変興味のある質問です。
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■ 村上博美 :ESI 経済戦略研究所 研究員
テロに対応するブッシュ大統領及びアメリカ議会の動きと、日本の対応を比べて気が
ついた点について述べたいと思います。テロが起こった3日後の9月14日、アメリ
カ議会は今回の攻撃に関して大統領の“必要で且つ適切な”軍事力行使の権限につい
て承認しました。
アメリカ憲法では議会のみが「開戦」(戦争状態の始まり)を宣言することができ、
宣言後に初めて大統領が国防のための総指揮権を行使できます。今回、議会は「開戦」
宣言には至らず、当初大統領が要求していた、将来起こりうるテロ攻撃に対する軍事
的先制攻撃を行う権限については却下しました。議会の承認を得るということは国民
から選出された代表が国民総意として国の方針に賛成するということです。ベトナム
戦争での大統領府の暴走を許した教訓から、大統領府と議会のチェックアンドバラン
ス機能が更に強化されています。日本の場合、果たして国民の総意が反映されるはず
の国会の場で政策が決められているでしょうか。
海上自衛隊の護衛艦が米空母キティホーク及び強襲揚陸艦エセックスに護衛として出
航したという記事を読み、国民の総意を受けていない省庁(つまり選挙によって選ば
れたわけではない人たち)が独断で国の安全保障に関わる決断を行ったということに
ついて疑問を感じました。警護の法的根拠は「警戒監視活動」であり、中谷元・防衛
庁長官は二十二日、「集団的自衛権が禁止されているので一緒に戦うことはできない」
が、「(自衛隊の)船が武器を積んでいる場合、武器を守るため自衛隊の船に対する
攻撃は反撃できる」とする自衛隊法九五条(武器等の防護のための武器の使用)を根
拠に挙げ、「相手がやられるか、自分がやられるか分からないケースは、自分からみ
て自分が危ないということで自己防護できる」という認識だったと報道されています。
つまり、何らかの攻撃があった場合それは防衛庁の判断を超え、国の判断となるとい
うことにも関わらず、内閣はもちろん国会の承認すらなしに行われたということです。
テロによる攻撃を受けた直後で極度の緊張状態であったアメリカの場合でも、テロ行
為を受けるはるか以前から決められていた通りのルールに従って議会の承認を経て軍
隊出動を行っているのにも関わらず、日本では今回の自衛隊護衛艦出航に限らず国会
承認以前のプロセスで物事が決められることが多いのではないでしょうか。自衛隊派
遣の新法についても、与党内で調整といった形で新法案内容のつめが行われ、国会の
場で本当の意味での議論はこれまでのところされていません。
誰が何を言ったか、どういう議論があったか等国民は「知る権利」がありながら与党
内のバーター(中選挙区制復活とのバーターという噂がありますが)や与党三党幹事
長や国対委員長同士の調整、自民党政調でほぼ確定し、意志決定の過程はオープンに
されません。
その結果、責任の所在もあいまいです。国の将来を決める重要な政策でも与党内調整
で政策が決まってしまい、選挙により日本国民の一部を代表しているはずの野党は与
党の圧倒的多数票の前にはなすすべがありません。なぜ国会でオープンな議論によっ
て国の根幹に関わるような重要な政策決定がなされないのでしょうか。
アメリカの場合、選挙民や一般の声を吸い上げ、オープンな場で政策形成がされてい
くメカニズムがあります。意志決定の課程において沢山の人が政策形成に関わってい
るといえます。例えば身近な例ですと、C−SPAN(TV及びラジオ)やNPRというラジオ
番組で一般市民と議員や専門家や外国閣僚等の双方向の議論が提供されています。最
近の番組では議会の公聴会の様子やホワイトハウス報道官や国防長官等の記者会見、
外国閣僚とのインタビューや、バイオテロの専門家をスタジオに迎えリスナーからの
質問にライブで答えるという番組を組んでいます。TVではどちらかというとテロの被
害者の家族の話が多いのに対して、これらの番組では比較的政治的関心の高い(但し
知的レベルが必ずしもそれほど高いとはいえない人も含む)アメリカ人の意識を知る
ことができます。
現在議論が進行中の法案に対しても、少数派を含む一般のリスナーから多様な意見が
聞こえてきます。司法長官アシュクロフトが提案している個人情報管理体制を強化す
るという法案でも、アフリカ系アメリカ人などのマイノリティグループは肌の色や出
身国で差別することは問題の根本的解決にはなっていない、とオクラホマ爆破事件の
犯人(白人)を例にあげて反対しています。管理強化という名において、特定の政治
的信条や人種をもって犯罪容疑者と見なされる可能性が高くなり、政府が個人情報の
管理を行うということは人権の侵害となり、時代の逆戻りではないだろうかという議
会での議員の発言もラジオで聞くことができます。
ブッシュ政権の方針がどれだけ支持を得ているか、ということに関して匿名の電話で
は「私は今の風潮では、ブッシュ大統領の言動に疑問を呈すると“反愛国主義”なの
かと攻撃されるので怖くて言えない」というものもあり、各地の大学や都市(NYやワ
シントンDC)では反戦デモが行われていることを考慮すれば、ブッシュ政権が推し
進めていた強硬な方針に必ずしも賛同していないアメリカ人も実は結構いることがわ
かります。
これらの選挙民の意見はそのまま代表である議員たちに少なからず反映されます。そ
れらの議員は選挙民の意向を十分把握した上で、テロ対応策についての議会での議論
や投票行動に及ぶのです。つまり、米国の選挙民は政策決定プロセスを「知る権利」
だけでなく、そのプロセスに継続的に(選挙の時だけでなく議会で議員が投票する機
会の度に)政策決定プロセスに「参加する権利」を行使しているのです。アメリカの
選挙ではその候補者(元議員)が過去にどういう法案に賛成したか反対したかの履歴
が全て公表され、選挙民はそれを見てその候補者に投票するという人も多いのです。
議員にとっては、常に選挙民や世論がどういう意見をもっているかチェックしなけれ
ば自身の死活問題となるため、このようなラジオ番組は実は貴重なフィードバックの
ルートなのです。別な言い方をすれば、議員と選挙民の間にもチェックアンドバラン
ス機能が働いているといえます。
日本のケースを顧みた場合政策決定プロセスの「知る権利」「参加する権利」はどの
ような状況にあるでしょうか。政治家がインターアクティブに一般市民と議論するな
ど世論フィードバックの機会もほとんどない上、オープンに国会で議論することに
よって政策形成がされていないというのは、民主主義のプロセスからいうと実は非常
に危険なのではないでしょうか。現在現職である国会議員も、過去の選挙の際には想
像すらできなかった今回のようなテロ行為に対する日本の対応策については、選挙民
の信任を得たわけではありません。今後この問題で日本が取りうる方針は場合によっ
ては従来の憲法解釈を変えるか、憲法を改定しなければならないほど重要な問題です。
各党が独自の対応策を掲げ、それを主権者たる国民に選択してもらうため総選挙を行
っても不思議ではありません。
また湾岸戦争の時のような思いをしたくないから、アメリカから「旗を見せて欲しい」
といわれたからではなく、国民を代表している議員たちが日本はどういう国となりた
いかという議論を国会の政策決定プロセスで見せてほしいと思います。最後に強調し
たいのは今回のテロ行為に対して日本がどのような対応策をとるのかという『結果』
より、どのような『プロセス』を経て対応策を決めるのかというのがはるかに大事だ
ということです。この『プロセス』を確立することによって、今後想定されない様々
な問題が起こった時、常に国民が納得のいく形で対応できるのではないでしょうか。
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■ 渡部 恒雄 :CSIS 戦略国際問題研究所 主任研究員
現在までの私の2回のリポートに様々なご意見、質問をいただきましたので、それに
お答えする形で、3回目のリポートを書きます。質問は大量、多岐にわたっているの
で、それぞれいただいた質問にすべてお答えできませんが、できるだけ多くの質問の
内容に沿って、説明するつもりです。まず、最初に私自身の議論の基本的スタンスを
確認しておきます。私の議論は、日本の政府と国会が何をするべきかの政策提言、あ
るいはその参考としての分析です。したがって、第一の優先順位(プライオリティー)
は、日本国民の生存、安定、繁栄です。日本の生き残りを優先するためなら、道義に
反することを何をやってもいいといっているわけではありませんが、現実の国際関係
の中では、自国の生き残りを優先するために、他の問題の優先順位を落とさなくては
いけないという状況もでてきます。
ちなみに現在までのところ、国際常識や国際法を逸脱するような議論はしていないつ
もりです。上記のようなスタンスをとる根拠は、現在の世界が基本的にアナーキー
(無政府状態)であるということです。これは国際関係の理解の基礎なので確認して
おきます。つまり、現在の世界では、いわゆる世界政府というものが存在せず、統治
に関して正統性(legitimacy)を持つ最高の権力が国家主権(sovereignty)という
ものに止まっています。日本語の「主権」だと意味が通じないのですが、英語の
sovereignというのは、「最上の」という意味です。
世界には国家主権以上の力はな
いのですから、国家間の問題を解決する際には、国家主権同士が決めた条約や国際規
約など国際法のルールに基づいて、決定するようなシステムになっています。
しかし、国家あるいは国家の統治下にない非国家勢力を、そのようなルールに従わせ
るためには強制力が必要です。国家には警察と軍隊という暴力機構による強制力が、
主権の正統性の下に認められているわけですが、国家を超えるものには、そのような
正統性をもった機構はありません。つまり、国家間の関係は、基本的には群雄割拠の
無政府状態ということになります。(日本には「軍事力はないのだから、司法力を発
揮するしかない」というご意見をいただきましたが、強制力(軍事力)の裏打ちのな
い司法力というものは、国際、国内ともに機能しません。国内でも裁判を行うために
は、容疑者を裁判所にまで連れてくる強制力(警察機能)が必要ですよね。)そこで
様々な国際関係の理論や仕組みが考えられているのですが、現在もっとも広く認めら
れているのが国際連合という国際機関で、あくまでも国家間の合意に基づき、国際法
の約束に基づいて、世界政府もどきの行動もします。
しかし、正統性という面でも、実質的な効力という点でも、いまだに国家主権を超え
るものではありません。国連軍というものは存在しますが、あくまでも、諸国が軍を
出し合っているだけの存在で、国連自身が直接、命令、管理しているわけではありま
せん。そこで、現在の国際間の安定は、どこで保たれているのかという理解のために
は、力の強い国家同士のバランスがとれて安定している勢力均衡論(バランスオブパ
ワー)や、世界の中で飛びぬけて力の強い国家が世界の安定のための公共財を提供し
て安定を図っているとする覇権安定論(hegemonic stability)などの見方がありま
す。私自身もこのような理論の助けにより、現在の世界の安定は、飛びぬけて力の強
いアメリカという覇権国家が、世界の主要地域に軍事力の前方展開をして、いわゆる
「世界の警察官」として世界の安定に貢献しており、他の諸国もそれに利益をみいだ
し、現在のところ、その安定に深刻な挑戦をつきつけようという国家は出現していな
いという理解をしています。ただし、アメリカの覇権国としての役割は正統性に基づ
いたものではありませんから、これに対する批判や挑戦もできますし、アメリカ自身
もいい加減に疲れたと思えば、その役割をやめることも可能なわけです。
ただし、現時点ではアメリカ自身が、安定した世界の市場から大きな利益を得ており、
世界の安定に大きな国益を持っていますし、多くの国家がこのアメリカの力と役割に
対して共通の利益を持っているわけです。私が今回のアメリカの対テロキャンペーン
と報復措置に協力するべきだという根拠の一つは、アメリカの覇権が崩れるときが、
まがりなりにも安定している現在の国際間のバランスを大きく崩し、現在の世界をさ
らに混乱に陥れ、より多くの人々が苦しむことになるという判断があるからです。お
そらく、アメリカに協力している諸国のリーダー達も同じ理解ではないでしょうか。
現在の国際社会は沢山の矛盾を抱えています。貧富の差は極端に大きく、先進国の国
際環境が安定しているだけに、後進国、とくにアフガニスタンのように大国の思惑に
翻弄され、内戦が続き、経済的にも最貧国である「失敗国家」の惨状は目を覆うばか
りです。しかし、現在、アメリカの報復に脅える現在のアフガニスタンの状況が、ア
メリカや他の国のリーダーの理解の外かといえば、そうではないでしょう。ご指摘の
とおり、今回のCNN
が煽る報道やアメリカ中心の報道に対する批判は私も賛成です。
しかし、アメリカの新聞等の活字メディアでは、アフガニスタンの惨状や、アメリカ
が対ソ連政策のためにタリバーン勢力を援助したことなどの、政策的矛盾は、広く議
論されています。(余談ですが、これは田中真紀子外相が、テレビではスター扱いさ
れ、活字メディアでは批判されていたことと似ています。結局、日本国民は無能な外
相を更迭する機会を逃し、そのつけを今払っています。)世界を覆う悲惨な事実に目
をつぶってはいけませんが、それと同時に、現実的にアメリカの覇権安定が崩れたと
きに起こりうる、現在よりもさらに混乱した世界情勢も想定しなくてはなりません。
それからこれも再度確認しておきますが、アメリカ、特にブッシュ政権は、日本で考
えられているほど、頭に血が上り冷静さを欠いているわけではありません。これも
メディアの罪の一つだと思いますが、一部の人達から寄せられた「アメリカが、怒り
に駆られ、大量の罪のないアフガニスタン人を空爆して復讐をとげる」という構図は、
現在アメリカが遂行しようとしている、国際的な幅広い協力によるテロネットワーク
の撲滅というミッションとは相反します。
特にアメリカは、先進民主主義国家からの国際世論と国内のリベラル勢力を無視した
行動はできないはずです。ここ数日のアメリカの政権上層部は、初期に使った語気の
強いレトリックから、より現実的な対応を求めるものに大きく変化しています。例え
ば、9月27日には、ブッシュ政権で最もタカ派のウォルフォビッツ国防副長官です
ら、ビンラディンとそれを擁護するアフガニスタンの勢力への軍事攻撃は今すぐの話
ではないし、現在は彼らの所在がどこかという情報活動を強化することが大事である
というコメントをしています。
ただし、アメリカがラディン逮捕やテロ組識壊滅のために軍事行動を行うことで、例
えば、特殊部隊の作戦やテロ訓練施設の爆撃などで、関係のない民間人の犠牲が予測
できるため、それに対しても全て反対という立場の方もいるかと思いますので、これ
にも私はあえて逃げずに反論します。アナーキーな世界を安定させる際には誰かが現
実的な立場にたって、汚い仕事(ダーティージョブ)をしなくてはなりません。これ
まで、ダーティージョブも含めたアメリカの軍事行動による安定的な国際関係に利益
を受けている日本が、その部分にまで道義的な理由で反対するには、かなりの覚悟が
必要です。
もし本気でアメリカを動かそうと思うなら、日米安保解消やアメリカ市場を失うぐら
いの覚悟は必要でしょう。当然のことながら、日本経済が世界経済から外れ、アメリ
カ軍が日本から撤退すれば、その影響は日本だけのものではなく、世界とアジアの国
際環境は混乱に陥るでしょう。そうなったときに、失われる人命と富は、今回予想さ
れるアメリカの軍事行動の副次的被害を上回ると予想できます。日本がそのような覚
悟なしに、アメリカに忠告しても、あまりにも偽善的な発言として嘲笑か怒りをかう
だけでアメリカは動かないでしょう。
もしアメリカが必要以上の暴力行為を行うことが明白に予想できる際には、(例えば
核の使用とか)日本は相当の覚悟をもって賛成か反対かの判断を下さねばならない状
況が来るかもしれません。状況によりますが、国際的な支持を失ったアメリカの行動
には覚悟を持って反対すべきですが、日本の生存に関る状況では、あえてダーティー
ジョブにも、つきあう覚悟も要ります。その際にはNATO諸国との連携が鍵になるで
しょうが、いずれにせよ、現時点でアメリカとの緊密な協力関係を築いておかないこ
とには、反対意見も影響力を持ちません。ヨーロッパ諸国は、そのぐらいの覚悟はし
てアメリカにつきあっているはずです。
テロ組識ネットワークの壊滅のイメージが湧かないという意見をいただきましたが、
ラディンのグループに関していえば、ネットワークの中心であるラディン氏自身を探
しだし、逮捕することと同時に、世界各国に散らばる彼の組識と資金源を探知し、
これらを遮断、壊滅させるということです。そして、当然ながら、そのような行動は
アメリカの主権の範囲を超えていますから、国際法的にも現実的にも、世界各国の協
力がいるわけです。現在、アメリカは、ビンラディンに関する情報を多数持つ4ヶ国
のうち、中国、ロシアとの協力関係を強化し、パキスタンの一部協力を得、現在イラ
ンにもアプローチしています。またラディンのグループの資金源を絶つために多くの
国に協力を要請していますし、日本も協力を約束しています。
この件に関して、アメリカと世界の諸国の国益は一致しているからこそ、協力関係が
できているのです。テロの抑止に関してご意見をいただきましたが、核の抑止体制に
しても、実際のところ、どこまで実際に抑止効果が機能していたのかという疑問は常
に専門家の間でもあります。核に関して、抑止という手段にたよる実際の理由は、
それ以外に手段がないからというのが実態でしょう。ブッシュ政権のミサイル防衛推
進の一つの根拠は、相互確証破壊によってお互いの国に照準を定めておいて抑止する
というのは道徳的には不健全だから、ミサイル防衛システムで核抑止をするというも
のでした。
しかし、ミサイル防衛にともなうロシアとの ABM条約の廃棄により、むしろそれまで
の安定した抑止体系を崩すという反論もでてきたわけです。今回のような非国家勢力
による大規模なテロが現実のものになる前には、アメリカを含め民主主義国家は、
テロに対し抑止というよりは犯罪防止というスタンスだったのだと思います。それを
国家間の抑止という概念にするには、テロ行為の主体が国益に則って行動し、失うも
のを恐れる国家という存在でなくてはいけません。その意味で、ご指摘があったよう
に、ブッシュ大統領がテロ攻撃を受けた直後に、戦争という国家対国家の用語を強調
し、テロリストだけでなくそれを匿う国家を報復の対象にいれて、国家間の問題に仕
立てたあげたかったということは、そのとおりでしょう。
戦争、特に国家からの攻撃に対する国家からの反撃は、国際法で認められているもの
だからです。しかし事態が進むにつれ、この問題が国家対国家で片付く問題ではない
という認識が進み、戦争というレトリックはトーンダウンしていったのではないで
しょうか。少なくとも現時点で、ブッシュ政権は、現在の軍事オペレーションを対テ
ロリズムの戦争とはいっても、アフガニスタン(あるいはイラク)との戦争という認
識も言葉づかいもありません。今後のテロの抑止あるいは防止には、今回のテロがど
のような形で解決するかにかかっていると思います。
少なくとも、国家による報復行為の可能性が低まれば、テロリストやテロ支援国家に
とって、テロを行うための心理的なハードルは下がるといっていいでしょう。といっ
て今回のケースでは、アフガニスタンのタリバーン勢力に報復措置をとることが、ビ
ンラディンの次なるテロ行為への抑止として有効なのかはわかりません。したがって、
アメリカは単純な軍事的報復よりは、主犯の逮捕やネットワークや金融手段の遮断と
いう犯罪防止的なアプローチを重視しているのでしょう。
最後に確認しますが、政策論は、現実に対してどのような対応をするかという答えを
出さねばなりません。そのために、これまでの経過、現状の分析、今後の展開の見通
しに加えて、実際に政策を決定する政策当事者が負うであろう結果責任も十分に考慮
しなくてはなりません。歴史を振り返れば、道徳的にはきわめて立派な動機が結果的
には惨澹たる結果に終わったり(例、国際連盟)、利己的な理由から始めたものが、
結果的に公共の利益にかなう結果を残すということも(例、冷戦による平和)、国際、
国内政治を問わずよくあることです。
ですから、政策論の場合は、道徳的要素はある程度までは考慮すべき要件ではあって
も、それ自体が政策のゴールではない、という厳しい現実もある程度理解していただ
きたいと思います。それから、今回はテロの主体がイスラム原理主義者ということで、
イスラム教対キリスト教の文明の衝突や、現在までの人類の文明自体を見直そうとい
う議論が多くでています。そのような議論は、実際に我々の今後の生き方や、長期的
な政策策定には参考になるでしょうが、すぐに答えの要求される現実の政策論にはそ
ぐわないものです。例えば、現在進行中のパレスチナとイスラエルの停戦努力のよう
に、パレスチナ解放機構を含むイスラム国家の多くは、イスラム原理主義のテロを文
明の衝突戦争に拡大させないように、現実的な努力を行っています。アメリカの現在
までの中東政策の失敗は責められるべきでしょうが、なぜか日本人から多く寄せられ
るパレスチナ問題とイスラム原理主義のテロを直結させる議論は短絡的であり(無関
係とはいいませんが)、むしろ現実的解決を目指すパレスチナや穏健なイスラム国家
の利益とは一致しない迷惑な話だと思います。
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■ 伊東章 :会社経営
これは、渡部恒雄氏のリポートに対する疑問でもあり、現在進行している対米軍事協
力などの点に関しての疑問でもあります。
渡部氏も述べられているように今回のテロに関して、ある時期からブッシュ大統領が
「これはテロ以上だ、もはや戦争といっていい」という発言をするようになった。
これは意外なことをと思ったのは私だけでしょうか。テロと戦争を比べるのもなんで
すが、非道さでいったらテロは戦争以上といっていいでしょう。
渡部氏は「危機感と団結力を高める目的で、戦争という言葉を使っているようですが」
と推定で語られていますが、「戦争」という言葉を出すことで、国家間の問題に仕立
て上げたのはアメリカ合衆国なのではないでしょうか。ここから「報復」「軍事行動」
「国際協力」「軍事協力」などの文字が、頻繁に飛び交うようになりました。これは
チラッとテレビで見たので、確認はできていないのですが、パウエル国務長官が、
日本の小泉首相の対応の悪さを記者会見で述べているところを見ました。そのときふ
と思ったのは、これを機会にアメリカは各国に踏み絵を踏ませる気ではないかという
ことでした。
この事件を契機にアメリカの号令の元全世界が、行動を共にすることを可能にする。
そうした下地作りをしようとしているのではないかということでした。そうして
今着々とそのシナリオが実行されようとしているようで心配です。渡部氏の示した答
えのなかで(B) に反対する人は誰もいないでしょうから、(C)という選択はナン
センスです。つまり(B)で収めるか(A)まで範囲を広げるかという選択です。ここ
に、テロを戦争と置き換えた意味が生じてくるのです。
単純化すれば、テロなら捜査であり警察が担当する、戦争なら報復であり軍隊が関与
する。それがそのまま(A)か(B)かの選択になるというわけです。(A)
の報復に
しても、どこがそれを行うかではなく、どのような条件の下に報復行為が行われるの
かという基準が不明瞭ではないでしょうか。単に匿っているらしいから空爆だ、占拠
だということなのでしょうか。
軍事協力に関して言えば、どのような条件なら報復に協力するのか、それともそれは
アメリカの一任で、理由はともかくアメリカの命令で動くのかといったことの明確化
も必要に思われます。ともあれ、アメリカがこのテロを「戦争だ」「戦争だ」と言っ
ている意味をもう少し深く考えてみてはどうでしょうか。テロは問答無用のことです
が、しかしこの事件を起こした側の背景も考えなければならいでしょう。
大きくいってしまえば、これはひとつの宗教戦争で、イスラム対キリスト、ユダヤの
エルサレム争奪戦で、聖地を汚されたイスラムが、敵の象徴である聖地に攻撃をした
ということではないかと思います。パレスチナを含めたこの紛争は、西側キリスト教
文明国の解けざる問題として何十年、何百年と続いています。今回のテロはそうした
紛争の歴史の中でも、巧妙で規模の大きさでも未曾有のものかもしれません。しかし、
規模が大きく、犠牲者が多くても本質は変わらないと思います。
パレスチナの兄弟が壁際で、肩を抱き合って発砲される銃弾から身を懸命に避けてい
る姿が、テレビで放送されていました。その後、この兄弟の弟が遂に被弾し、絶命し
たというテロップが流されました。テレビカメラの前で、公然と無防備な少年が射殺
されるというのは、テロ以上なのでしょうか以下なのでしょうか。民主主義国家では、
人間一人一人の命は同じだと教えています。一人の射殺は軽くて、大勢の犠牲者が出
たのは戦争で、だから報復でアフガンやイスラムの多くの人たちの命や家を奪ってい
いのでしょうか。
それは今までの歴史と同じで、テロ撲滅ではなくテロ再現の歴史になるのでしょう。
文明の利器が大規模化、高度化すれば、それだけ犠牲者が多くなるのは当然なので
しょう。まだ、核や生物化学兵器など、利用できるものは数限りなくあるのでしょう。
自己犠牲を覚悟した個人や集団なら、まだ恐ろしい事態が想像されます。たとえば、
東京のサリン事件で自己犠牲覚悟で行ったならどんなことになっていたか、考えただ
けで寒気がします。何とかと鋏みは使いようですが、鋏みにできることなら高が知れ
ています。ところがそれが飛行機や、高層ビルになると今回のようになる。
飛行機のコントロールはパイロットが行うものと決めてかかっていたのに、それがほ
かの悪意のある第三者の手に渡ると、もう手の施しようがなくなってします。地上か
らの無線操縦が可能になるまで、同じ状況はありえるのでしょう。高層ビルにしても、
まさか飛行機が突っ込んでくるとは構造計算の中に入ってないでしょうが、激突した
後のビルの崩壊過程を予測できた専門家がいないのは一体何故なのでしょうか。崩壊
すると警告していれば、犠牲者の多くの人が助かったと思えるのです。今回のテロの
なかで、もっとも悔やまれるのは、ビルの崩落の危険をいち早く伝えられなかったこ
とではないでしょうか。事故を最小限にできる唯一の機会だったと今にして思います。
高層ビルを作った人もあるいは、その道の専門家も崩落の危険性を指摘しなかった。
そのため、オフィスに戻った人もいれば、救助のために非常階段を駆け上がった消防
隊員も犠牲になってしまった。今日本でも、高層のオフィスビルや、高層マンション
が多く建っていますが、本当に地震は大丈夫なのか、高層階で火災が起こったときに
どう救助するのか、そのときにならなければ誰も気を回さないのかもしれません。
コントロールできていると思っているものに、不測の事態が起きたとき手をこまねい
てみているだけというのは、コントロールできたといえることなのでしょうか。自分
の重さを耐え切れずに自壊していった国際貿易センターは、やはりわれわれの文明の
象徴のように思えます。
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