「日本政治ー小泉政権のゆくえ」 ブルッキングス研究所 客員研究員
朝日新聞 編集局次長) 若宮啓文氏   Q&A セッション

2001年6月20日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC)

Q1. 2つ質問させて頂きたいと思います。1つは自民党の将来についてなんですけれども、小選挙区制が導入されてから個々の力が段々強くなって派閥の力が弱くなってきたと言いつつ、竹下派の力が強かった。「革命的だ」という言葉をお使いになった通り、そういう中で今回初めて竹下派が引く形で小泉内閣ができたということで、それによって今後の自民党がどう変わっていくのか、ということ。2つ目は田中真紀子氏のことなのですけれども、実際彼女は今、外務大臣という役職にあって、自分のしたい政策をある程度実現できる立場に就いたわけですが、色々な能力を持っていないと本当に実現することはおそらくできないと思うのです。小沢さんなどは非常にアイディアもありながら、あるバランスが欠けてなかなか上手く行かなかった、という例もあるのですけれど、そういった様々なケースがある中で、田中真紀子氏が譲歩なども含めながら自分のしたい政策を実行していく能力が果たしてどれだけあるのか、ということです。

A1. 田中真紀子外相がやっていることは、プロの中では評判が悪いのですが、世間ではやはり非常に支持が高い。外務省というのはとんでもない役所であるという認識が例の機密費問題以来強まっていて、それと闘っているという構図で支持が世間的には高いわけです。相手が外務省の人だから世間から見ると非常に痛快に見えるということなのですが、しかし外交を進めるということはそれだけではないはずなので、その辺が先ほど言いましたように、一つの落とし穴かなとは思います。アメリカに色々注文するのは非常に結構なことだと思っています。色んなやり方、流儀等々、この1ヵ月半程で学ぶのかどうか、というそこら辺の見極めは私も良く分からない。相変わらず危なっかしい所はあるんじゃないか、と。ただ、それをある程度の所でなんとか抑えているのが官邸の福田官房長官と小泉さんだというわけです。さすがに総理大臣ですから、小泉さんの言うことは聞く。私も先のことはよく分かりませんが、下手すれば相変わらずアキレス腱になってくるのではないか、という所です。

それから自民党が変わるかどうかについてですが、実際問題としてそんなに急激に変わるわけではなくて、とりあえず小泉さんの出現によって表紙が変わったわけです。ただ、表紙が変わっただけではどうもなさそうだ、と。橋本派は確かに虎視眈々で、今度の選挙で自民党が勝てば不思議なことに橋本派が膨れるのです。これはそういうことになっていまして、構造的な一種の矛盾なのですが、小泉さんが自民党を勝たせるということは橋本派を膨らませることになる。ですから、今は大人しくしているけれども、選挙が終わって秋から橋本派が色々いたずらするのではないか、とそういうふうに見ることもできます。ただそれ程のパワーが橋本派にあるんだろうか、というのは疑問です。こないだの総裁選を通じて、その指令が末端まで全く行き届かないということも分かったし、派閥の中、永田町でさえ若手の中に造反めいた動きが出てきている。昔ならそんなことは全く考えられなかったのですが。こういう動きがこれからもっと公然と出てくるのではないかと思います。少なくとも今度の秋の総裁選では支持するかどうか問われるわけです。その辺の動きがどうなるのか。それから選挙を経ると、いくら橋本派だとか何とか言っても、個別の選挙区に来てもらって応援してもらって勝てば、恩義ができるわけです。そういう意味では、参院選だけでなく衆議院も一気にやる、という考え方は分かるのです。そうやってあちこちに「小泉のお陰で当選した」という意識を充満させる為には、解散を打つというのは手だと思います。もちろん勝てば、の話ですけれども。そういう意味で、もう橋本派自体に力がない。しかも「顔」がいないわけです。橋本さんを除くと、野中さんとか青木さんとかですが、それではとてもやっていけないことが分かっていて、次の世代の名前がとりあえず何人か挙がっていますけれども、どれもすぐに日本の顔になれるという人ではない。そういう意味で求心力が急速に衰えています。小選挙区制で、自分が当選する為にあまり派閥に頼る必要はなくなっているわけですから、むしろ小泉さんに直結で、「自分は小泉のシンパだ」ということを訴える方がはるかに有効になってくる。またおそらく選挙をすれば、田中真紀子さんも大きな存在感を持ち得るわけです。そういう意味ではいつまでも彼女のことをがたがた言っていても、結局選挙をすればそれなりの地位を築く可能性がある、と思うのです。そういうふうに少しずつ変わらざるを得ない。

それから、ポイントは何と言っても、今年後半の予算編成に向けた経済の構造改革をどうやっていくのかということと、現実問題として秋になるとおそらく銀行の不良債権の問題が深刻になってくるので、血を出してこれを処理するのかどうか、ということだろう思うのです。その時に、先程言ったように財界の支持が強いというのは、とにかく思い切ったことをやってくれ、ということだろうと思いますし、『論座』の他の調査でも、例えば「マイナス成長でも構造改革を進めるべきか」という質問に対して、どの党でもおしなべて平均すると8割くらいがイエス、と答えている。細川さんの時も既にバブルは崩壊して相当な時期に来てはいたのですが、まだあの時は、ここまで深刻な事態になるということを世間の人は分かっていなかったわけです。一部の人は分かっていたのでしょうけれども。あの時に「思い切って血を流して構造改革だ」と言ってもおそらく無理だったと思うのですが、今の状況ならやればできる。しかも森さんが「将来のために血を出しましょう」と言っても本気にされなかっただろうけれど、小泉さんが言えば、「ここは協力するか」と思わせるものがあるんだろうと思うのです。そのチャンスを捉えて、仮に党が割れてもいい、という覚悟で突っ走るかどうかがまさに鍵で、そうなればなかなか面白いのではないかと思います。その時に自民党が丸々変わっていくのか、変われないで相当な矛盾が吹き出して分裂、或いは分解してさらに再編に向かうのか。再編に向かった方が面白いのですけれども、自民党も一度野党になって学習していますから、この人気の小泉さんを相手にかたまって自分達が出て行くとか小泉さんを追い出すという構造になれるか、というと私は相当難しいのではないかと思います。だからある程度の所で妥協せざるを得ないのかもしれないけれど、小泉さんにとってはあまり安易な妥協をする必要はない状況だということ。ちょっと楽観的過ぎるかもしれませんが、覚悟次第ではできるということで、もちろん期待を込めての話です。野党はそういう意味で大変です。個別の選挙区を見ると、小泉改革とは似ても似つかないような自民党の候補者が一杯いますから、そういう所でどういう戦いをするか、ということでしょう。鳩山さんが必ずしも都市で好かれていなくて、小泉さんの方が圧倒的に好かれている、というような調査結果も合わせると、民主党は深刻かなという印象は受けます。

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Q2. 小泉首相についてですが、改革者としての面の他に、ある意味でナショナリスティックな面もあり、その両方の要素で大衆的な人気を得ているのだろうと思います。そこで、例えばよく言われるように、不況で国民が自信を失っている為に強いナショナリスティックなリーダーを求めている、と捉えるのか、それともそれとは無関係に単なる無党派層の風が吹いている、と捉えるべきなのか、というのが一点目。2点目は特に日韓関係に精通していらっしゃるのでお聞きしたいのですが、仮に現在の日本に何らかのナショナリズムのようなものが芽生えつつあるとすれば、今後の日韓関係にどのような影響があるとお考えでしょうか。

A2. 小泉さんにも石原さんと共通するような面があるというのは事実だろうと思います。ただ、そのナショナリズムが今の小泉人気の大きな支えになっているとは思わない。そういう部分がないとは言わないけれども、それが熱狂的に小泉さんが支持されている理由かというと、私はそうではないと思う。小泉さんの支持者を分析してみると、共産党ですら6割支持しているわけです。一番大きなポイントは、やはり社会の構造改革という所にある。もう一つ言えば、そういう理屈っぽい話ではなく、これまでのように談合でわけが分からないうちに進んでいく、というのではなくて、田中さんも含めてとにかくはっきりものを話すし、政治がとにかく分かりやすく非常に身近なものとして感じられるようになった、ということに拍手が沸いているのだと思うのです。

それからナショナリズムと日韓関係の問題です。昨今のナショナリズムの風潮は気にはなるのですが、ものすごく深刻に心配しているか、と言われると、私はそうでもない。例えば教科書問題で言うと、今回の問題に嫌なものは感じますけれども。20年前、私が韓国に1年いた時に最初の教科書問題というのが吹き荒れましたが、あの時の教科書問題というのは、政府が教科書を統制して、「侵略」を「進出」にさせようとするとか、要するに左寄りのものを右に修正しようとするというのが権力である、政府であると、いう構図だったわけです。それに対して、韓国や中国が「日本の政府はおかしい」と言ってきた。今度のはそうではなくて、政府の側が、多少なりとも右から出てきたものを修正して抑えるわけですが、それが「足りない」と言う、そういう構図です。20年前、30年前、さらに40年前に遡ると、世の中の空気は、むしろ今度出てきたような教科書が当たり前だった。ここ10年、20年で、日本の総理大臣は色々な形でアジアの国に謝ってきたわけです。それが充分かどうかは人によって見解が分かれるところだと思いますが、私は特に95年の村山首相によるアジアへの謝罪は相当なレベルだと思います。そういうものはここ10年くらい、さらに若干遡っても20年くらいの顕著な動きで、それまではそのような動きが全くなかったわけです。ないまま日韓条約が結ばれたとか、若干の遺憾の表明があったとかで、さらにそれより遡ると、日韓条約の交渉の中で、今であれば妄言として大問題になるような言葉が飛び交っていたわけです。ということは、要するに世の中は30年前に比べると相当真摯な態度を取る方向に修正されてきていて、日本を代表する総理大臣がそれを表明して、それに対して世論の7割くらいは支持している状況になっている。世論調査をしても、謝罪を支持したり、まだ足りないんじゃないかと言う方が多数なんです。そういう大きな流れがあって、それではなぜ今ナショナリズムなのか、というと、むしろそういう大きな流れに対する反動として出てきていると思います。特にバブル崩壊以降この10年、経済的にアメリカにもやられ、開発途上国の経済力の脅威にも晒され、日本経済が圧倒的によかった時代が終わって何か自信がなくなっている。そういう時に北朝鮮からミサイルが飛んでくるとか、中国は相変わらず核実験をしているとか、こちらが謝っているうちに何だか世の中が変わってきてしまった、という感じがあるのだろうと思う。そういう中でさっき申し上げたような、全体の大きな流れに対する反動として出てきているのが昨今のナショナリズムだろうと私は思います。それについては、弱ったなと思うものがありますけれども、その前の大きな流れを見失うとどこか間違ってしまうのではないかと思います。

それから日韓関係で言いますと、金大中・小渕会談というのが決定版としてありましたし、その前にワールドカップの共催が決まって、それをバネに日韓の友好関係建設への努力が進んできたわけです。そこに今回の教科書が水を差したのは間違いないのですが、この教科書に代表されるものが日本を席巻していくことになるかというと、私はならないだろうと思っています。今月の『論座』に、神戸大学の五百旗頭教授がこの教科書に対する根源的な疑問を書いていますけれども、私はその通りだと思う。決して、健全な保守層が読んで気分がいいというような教科書ではないと思います。それは、田中明彦、北岡伸一、山崎正和といった、穏健保守というか健全保守というか、そういう人達がこの教科書に異を唱えている、或いは唱え始めている、ということからしても分かります。ただし、外交的にはかなりやっかいなことになってしまったなと心配しています。

Q3. CSISに2週間前からお世話になっておりますが、私は派遣母体が特殊法人なので、個人的に石原行革大臣の動きが非常に気になっております。世もすれば、あれも官僚対大臣という構図を生みかねない懸案事項だと思いますが、その辺の動きはどうご覧になっていらっしゃるでしょうか。

A3. 私も直接見ているわけではないのですが、漠然と感じているのは、政高党低というか、政党が低くて政府が高いというのが今回の政権の特徴で、その点が従来の政権とは全く違うということです。森内閣というのは全く逆で、党高政低だった。何でも困ったことがあると「党の方で考えて頂いて」と言うのが森さんだったのですが、小泉内閣になってから、自民党の三役の存在感が薄くなってしまっているんだろうな、という感じはします。問題は、おっしゃったように、政府の中で政治と官僚の対立がどうなっていくのかということです。おそらく色々なテーマによって対応は変わってくるのでしょうけれども、行革で言えば、特殊法人潰しに官僚と自民党の議員が結託してどこまで抵抗するか、ということだと思います。これは相当深刻になるでしょう。問題は、その時に小泉さんが何を武器に突っ走っていくのか、ということです。その一つとして、エコノミストを登用しているというこの内閣の特徴が挙げられます。竹中平蔵はもう表に出てきていますが、もう一人、田中直毅を郵政民営化のために起用した。小泉さんとしてはおそらくこれは郵政だけではなく、色々なことの知恵袋に使おう、というつもりではないかと思います。或いは島田晴雄氏が特使として来るようですが、こういった人たちを豪華メンバーとして揃えている。ややタレントっぽい感じもしますけれども、ある程度タレント性がないと世間に対して説得力がないですから、こういうメンバーを並べて「もうこれしかないのだ」という形で世論の支持を背景に押し切っていくしかないのではないかと思います。石原さんが今具体的にどのようなことをしているか、詳しいことは私も分からないのですが、これから非常に面白いだろうと思っています。

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Q4. 先程、落とし穴としてスキャンダルがあり得る、というお話がありました。政治・経済が閉塞状況にあって人気熱が冷めた時は、スキャンダルというのが一番恐ろしいと思うのですが、今何か具体的に可能性はあるのでしょうか。

A4. 私が先程言ったのは、思わぬスキャンダルが出てくると恐い、ということであって、何か具体的にくすぶっている、という意味で言ったわけではないのです。ただし、小泉さんについて言うと、性格的にあんな感じですから、何かあった場合に処理する時も、割とあっけらかんと処理するのではないかと思います。細川さんは佐川急便の問題の処理に失敗したんですね。もう少し処理をあっけらかんと上手くやっていれば、あれは何てことなく多分乗り切れたのではないかと思う。そうすると何が違うのかというと、細川さんは対応が貴族的というか、プライドが邪魔する面がある。小泉さんは二代、三代前が「くりから紋紋」、という異色の刺青の代議士だった。そういうやくざっぽさで、何か問題が起きた時にあっけらかんと処理する所があるような気がします。もちろん問題の大きさによりけりですが、もう一つ、非常に有能な秘書が裏方にいるというのも大きな違いではないでしょうか。

Q5. 中曽根元総理が、「小泉内閣は理念型の統治スタイルを取っていて、私とDNAが同じだろう」という趣旨の発言をされていて、憲法問題や靖国問題をめぐって小泉・中曽根ラインに石原都知事を含めるような形で政界再編に向けた動きがあるようです。鳩山・岸・中曽根というのは経済重視よりも理念で統治していった内閣であり、吉田・池田・佐藤といった内閣は経済重視型で統治した内閣である、という見方がありますけれども、小泉政権は経済構造改革を大胆に進めることができるような強味を持ち得る内閣だと思われますか。小泉内閣は歴代内閣の系譜の中でどのように位置付けられるでしょうか。

A5. 小泉さんは今派閥を出ていますし、あまり派閥に属するようなタイプの人ではありませんが、議員になる前には福田さんの書生さんをしていましたし、あえて言えば福田派に属していた、つまり右寄りの系譜の中で育って来たということは言えるわけです。小泉さんが系譜としてはそちらの方に属するというのは事実だと思うのですが、ただ小泉さんから聞いたことには、「自分は未だかつて台湾にも韓国にも行ったことがない」と。中国は1度か2度か行かざるを得なくなって行ったけれども、台湾には行っていない、と。なぜかというと、昔は福田派というだけで、ただでさえ親韓派とか親台派というふうに見られた。当時はもちろん軍部独裁だったりして、どちらも今の韓国とか台湾とは違っていた時代ですが、自分は親韓とか親台とかいうレッテルを貼られるのが嫌だから行っていないと言うわけです。だから、中曽根さんとか石原さんのような情念がたぎるような右の人とはちょっと違う。憲法改正とか集団的安保なども、おそらく「何が何でもこれをやるんだ」というつもりではないだろうと思うのです。靖国について言えば、私は反対ですが、福田さんの時代には行ったんです。三木・福田・大平・鈴木さんたちは少なくとも私的参拝で行っていて、その時には中国はあえて問題にはしなかった。国内では憲法問題で随分反対もありましたけれども。中曽根さんが公式参拝を始めた後、中国や韓国が問題にして、それ以来私的にも行けなくなってしまうという皮肉な結果になってしまった。そういう意味で、小泉さんは「公的参拝」を仰々しく唱えているのでなく、「あの時やっていたではないか」という意識がどこかにあるのだろうと思うのです。ただ、それはA級戦犯の合祀がそれふぉどクリアでなかった時代ですから、ちょっと事情も違うとは思うのですが。

では、小泉さんが情念を持って一番やりたいのは何かというと、間違いなく郵政民営化に代表される特殊法人改革であり、構造改革の方であろうと思う。そこに蓄積された知識がどこまであるかは分かりませんけれども、学者を集めて肉付けをしようと努めている。ですから、小泉内閣が後世に名を残すとすれば、「経済構造改革を遂行した政権だ」というふうに言われたいと思っているのは間違いないのではないかと思います。現に、中曽根さん的な理念の方に力を入れ始めたらこの内閣はだめだと思う。まず田中外相と分裂しますし。そういうふうに靖国問題や憲法についても全然感覚の違う人を外務大臣に据えていることから見ても、そういった問題に情念を持って取り組もうというような理念型政権ではないと思います。

Q6. 小泉内閣は改革の内閣ということですが、舵取りを間違った場合に全体を揺るがしかねない問題として財政の問題があると思います。小泉さんのサークルの中では、財政再建の方に向かおうとしているのか拡大の方に向かおうとしているのか、どちらなのでしょうか。

A6. 公約にもありましたように、小泉さんは間違いなく財政再建の方に向いていると思うのですが、それについて懸念する人もいる。例えばブルッキングスにいるエドワード・リンカーンという人は構造改革論者ですが、「今財政再建を焦ると逆に失敗する」と言うわけです。先程申し上げたように、秋になって銀行が大変なことになって失業者も出てきたりした時、それを何とか下支えするのが財政の役割だからです。もちろん長期的には財政再建は必要だけれども、構造改革と財政再建を今一緒に持ち出すと失敗するのではないか、と。いわゆる公共事業を切っていくのはいいと思うのですけれど、その分を別の角度から雇用創出の受け皿のために使っていく必要があるでしょう。単に数字を減らすというよりも、まさに財政の方の構造改革を上手くやっていかないとならないのではないかと思います。

Q7. 自民党員というのは一体どういうものなのか、という疑問を持っています。今回の変化が自民党員にどれほどの影響を与えたのか、あるいは今後どう変わっていくのか、といった視点からお聞かせ下さい。

A7. 自民党員というのは確かに分からない所がありますが、地方のコミュニティでは、自民党の後援会で一生懸命にオラが先生を支えようという人の多くが党員にもなっていて、そういう人は地域内でも農協で役員をやっていたり、それなりのポストに就いていてボス的な存在であったり地域の中心的役割を担っていたりする、というのは事実だろうと思います。もう一つは業界団体。特に参議院比例代表区の名簿の上位に名前を載せる為に、その候補者と支持団体が党員を集める。つまり、何人集めたかによって名簿の順位が違ってくるというやり方を自民党はとったわけです。これはなぜかというと、特に新人の場合などは基準がないために名簿の順位を決めるのは難しいので、それを一つの材料にしたいということです。また同時に、そうやって競わせることで支持層を広げようということです。業界関係者、特に土建関係が党員の多くなのではないでしょうか。

初めての党員による総裁選は、福田さんと大平さんが戦った時だったと思います。あの時は福田さんが総理大臣になって、先程言いましたように「解党的出直しをする。党を近代化しなくてはいけない」ということで、とにかく党員を一杯集めようということにした。その時300万党員が集まった。それが犬猫まで入ったのではないかといわれるものなのですが、その当時福田さんは世論の支持もありましたし、そういうふうにすれば負けるはずがない、と思ったわけです。ところが蓋を開けたら、私達の読みも外れたのですが、大平さんが勝ったわけです。それは詳細に見れば分かるのですが、当時の田中派の応援が大きかった。大体後援会全部、自分の支持層としてまとめて持っていくわけです。同じ選挙区で、ライバルの人が中曽根派だったり大平派だったり福田派だったりする場合があったわけですから、特に同じ選挙区でライバルの代議士の親分が総裁選に出ていたりすれば絶対にそっちには取られまい、というようなことで、派閥の指令が永田町から選挙区まできちっと降りたわけです。それが今はもうナンセンスになってしまった。同じ選挙区にライバルの派閥がいないわけですから。今度の選挙で橋本派の議員の多く、特に若い議員は嘆いていたそうですが、選挙区に帰ると支持者に、「なぜ先生は橋本派なんてやっているのか」と突き上げられるそうです。そういう人はもう小泉さんに入れてしまっているわけです。

業界の方の締め付けもほとんどきかなくなってしまった。昔だとやはりそういう政治構造自体が予算を取ってくるとか事業をとってくるという形で表裏一体の関係になっていたのですが、いくらやった所でこの時代期待できないし、いくら公共事業を持ってきた所で昔のような効果はない。というわけで、業界団体そのものがそういう締め付け作業をできる状態になかったというふうに言われています。

Q8. 小泉内閣に従来と異なる強いリーダシップがあると見られている背景として、分かりやすい政治にシフトした点を指摘されていましたが、さらにそれが出てきた経緯としては、メディアが求めていたのでしょうか、それとも政治の側から変わってきたのでしょうか。

A8. 色々な要素が絡み合っているのだと思います。とにかく最初に申し上げたように、森政権というのはあらゆる意味でどうしようもないと思わせるものが凝縮されていたわけです。まず生まれた経緯が非常に分かりにくい談合で、いわゆる五人組と言われる人達があっという間に選んでしまった。今までであれば、ああいった場合にももう少しプロセスを踏んだのではないかと思うのですけれども。もちろん手続的には本会議とか、その前にも自民党の両院議員総会で選出していますけれど、世の中の人から見れば森という人が今まで何をしていたのか分からない。幹事長ではあったけれども、総裁選に立候補して政策を訴えたこともなければ、日頃自分たちに何かメッセージをくれている人でもない。どういう人なのか分からないうちに小渕さんが病気になったというだけで出てきてしまった。曲がりなりにも小泉さんは2回も総裁選をやっていますから、それなりに政策を訴えて世間は面白い人だなと思っていたわけです。それから加藤さんは小渕さんに対抗して総裁選に出ていましたし、河野さんという総裁経験者で外務大臣をやっていた人がいたにもかかわらず、そういう人は一切無視して森さんがなってしまった。これは談合政治の典型です。しかもそれが上手くいけばいいけれども、その後の経緯は説明するまでもなくあまりにもひどいものだった。それは森さん個人の問題もありましたけれども、自民党がほんとに来る所まで来てしまった、ということだった。それを陰で牛耳っているのが野中さんとか青木さんとかで、世の中がこれだけ変化している中で、政治、特に自民党にあまりにも変化がないどころか、一体何をやっているのかという感じになった。経済がよければまだいいけれども経済も悪いし、国際的にも馬鹿にされるのではないかと。去年はアジアだけ見ても、南北首脳会談があったり台湾に陳水扁という人が出てきたりインドネシアの政変があったり、ダイナミックに動いたわけです。それぞれのリーダーがリーダーらしく振舞っている、というのがあれだけ見せられた中で、我が国はおぞましき状況だ、と。そういう様々なものが一気に小泉さんへの期待に繋がった。そういう意味では最初に申し上げたように森さんの貢献大で、上げ底的な人気だろうと思います。

その危険性はいわゆるポピュリズムというもので、国会で小泉さんや田中さんを批判すると電話が殺到して「なぜいじめるのか」と言うような、極めて低次元なことが起きている。ある種の危険性は感じます。「ワイドショー内閣」という言葉も作られているようですけれども、政治が、まともな政治のニュースとしてでなくワイドショー的に面白おかしく取り上げられて、人気に乗かっている。そんなに上等な政治とは言えない。そうは言っても、いつまでもそんなことが続くわけはないですから、当座はまあ仕方ないのではないか、とも思っています。つまり、ワイドショー人気でも何でも、人気のあるうちにその人気を武器にしてほんとにやりたいことをやるのであればいいのではないかと思っていますけれども、そういう人気ばかりを見て人気取りの政策ばかりをやるようになれば極めて危ないと思う。

Q9. その「ワイドショー内閣」と言われる小泉政権が、一般国民の政治意識を実質的に高める潜在的可能性をどの程度持っているという印象をお持ちでしょうか。

A9. 私もまだ分かりません。半年後くらいにどうなるかということでしょう。つまり秋に、経済状況が一層深刻になってきた時に、このワイドショー的人気ががらがらといくのかどうか。もちろん今の80%という数字がそのまま維持できるわけはないのですけれども、それでも改革を支持するということで歩留まりがある程度の所で収まっていくのか、というのが分かれ目でしょう。私は案外持つのではないかなと思います。色々な抵抗が出てくるでしょうけれど、官僚の抵抗と、それに橋本派を中心とする旧体質の自民党が結託して足を引っ張るという状況になればなるほど小泉人気は逆に上がるのではないかと思うのです。また悪役が出てきて小泉をいじめているという構図が、小泉さんにとっては必ずしもマイナスにならない、という面もある。確かに、経済問題は国民全体に波及してくるので批判的な声も出てくるとは思いますけれども、それで一気に「小泉を降ろせ」ということにはならないのではないかという気がしています。期待も含めてですけれども。というのは、楽観的に過ぎるかもしれないのだけれど、この政権が何らかの形で失敗してしまったら日本はもうほとんど希望がないと思うし、そういう感じをおそらく国民全体が持っているのだと思う。80数パーセントの支持というのは異常だ、ファシズムに繋がるのではないかと言う人もいるけれど、そういう切羽詰った期待感のようなものが集まってこうなっているのではないかと思うのです。秋になって6割くらいに落ちるというのが無難な所だろうと思います。

Q10. 野党との政策の上での戦いはどうなるでしょうか。

A10. 民主党の戦術はおそらく、小泉内閣を徹底的に支持するというよりも鼓舞する、という形だと思います。「あなたが言っているのは本来民主党が唱えていたことだ。だからそれを徹底して行うならばその限りでは協力する。ただし少しでも期待を裏切ったら許さない」という形で批判していく。そうやって煽り煽って自民党の中で亀裂を拡大させて、あわよくば自民党を割って政界再編に繋げるというのが民主党にとっての理想的なシナリオではないでしょうか。そんなに上手くはいかない、と言う人は別の戦略を考えた方がいいと言うのでしょうけれど。小泉さんにとってはそうやって民主党が煽ってくれるのは有り難いし、いざとなればそうできるというポーズを取れるということは党内にも睨みがきくのではないかと思います。ブレーンのエコノミスト達が、この機会をうまく利用してやれるか否かがポイントですが、田中直毅さんのようなまともな人がきちっと睨みをきかせれば、期待できないこともないのではないかと思っています。

ただ私が今日お話したのは、最も楽観的な見通しかもしれません。未来がどうなるかは分かりませんが、こういう見方もあるという風に理解してもらえればよいと思います。

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