PRANJワークショップ記録
| 「日本経済危機」
2002年2月20日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC) AEI主任研究員 酒井吉廣氏 座談会参加者: |
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| 村上: 今日は「日本経済危機」というテーマで、AEI、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートの主任研究員でいらっしゃる酒井吉廣さんにお話をして頂いた後、座談会という形で進めていきたいと思います。酒井さんは14年間日銀に勤務されまして、営業局市場課(現金融市場局市場調査課)、考査局副調査役、信用機構室調査役として、マクロ・ミクロの両方から金融を見てこられました。2001年の4月からAEIの主任研究員をされていて、専門はバンキング・システム、リスク・マネジメント、マクロ経済です。『論座』1月号に寄稿された『米国が嘲笑する日本流「不良債権処理」』がPRANJウェブサイトに掲載してありますので、ぜひご覧下さい。 |
酒井吉廣氏 |
酒井: 今紹介を受けていて改めて分かったのですが、日銀で何をしていたかというのは文字だけ見ても分かりにくいですよね。簡単に説明しますと、まず営業局でやっていたことは、「日銀はもっとお金を供給すべき」というようなことが今もよく言われますけれども、毎日いくらの金額を供給するかを決めて、実際にお金を出したり吸収したりというような仕事です。その後の考査局というのは、まさしく今の不良債権問題に関わるのですけれども、銀行の経営が健全なのかどうかというのを見る。当時はまだ「海外店調査マニュアル」、「資産査定マニュアル」或いは「リスク管理マニュアル」という表現だけだったのが、今は「検査マニュアル」という形で金融庁に統合されました。そういったマニュアルを作るのが3割くらいで、現実にそれが使えるものかどうかを確かめる意味も含めて実際に検査に入らせて頂くというような仕事があとの7割という感じでした。三つ目の信用機構室というのは考査局の延長線ですが、決済の問題が加わります。証券決済などは日本では遅れていますので、これをどうすればアメリカ並みに同日決済に持っていけるだろうかとか、債権や株などもごとう日とか四営業日目決済ではなくて、tプラス1(翌日決済)、tプラス2に持っていくにはどうしたらいいか、というようなことをしておりました。 今日は村上さんに「日本経済危機」というタイトルをつけて頂きました。元気のない日本経済についてまずは簡単にお話をさせて頂いて、色々と意見交換ができればと思います。意見交換のためのたたき台を提供するつもりでお話させて頂きます。 |
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アメリカ人、特に政府関係者は、「アメリカも不良債権問題を経験した、S&L(住宅金融組合)で経験したのだから、同じことを日本もやればいいのである」とよく言います。「日本経済は基本的にアメリカの真似をしてきたのだから、今回もアメリカの真似をすればうまくいくのだ」というある意味非常に短絡的な議論なのですけれども、一つ大きく違う点があります。S&Lというのは現在存在しない、少なくとも当時処理をする段階では存在しなくなる、潰してしまうということを前提に、あとは処理する側が何をすべきかということだけを考えて自由にやりました。けれど、日本の不良債権問題というのはそうではなくて、処理をされる側というのは当然生きていますし、今後も生きていきたいと思っている。企業の側も、「不動産バブルに染まって損はしたけれども、自分だけが悪いのではないだろう」ということを言います。さらにややこしいのは、「自分だけが悪いのではないだろう」ということの意味することとして、どうも政府の人が関与していたり、役人が関わっていたり、という話がいざ本気で処理をしようとすると出てきているらしいということです。 皆さんも何度か、「そろそろ本気で取り組むのかな」と思われた時期があると思います。96年から97年がそうなのですが、「検査を強化するぞ」と今と同じことを言っていたのです。ところがそう言った途端に揉め事があって、新聞などで「検査員一人自殺」というようなことが出たりする。その結果元に戻って、厳しいことは出来ないという状況のまま放置されてしまう。と言いますか、放置せざるを得ない状況になってしまう、というのが実は本当の問題なのですね。ですから、金額が大きいために現在の銀行の体力では処理できないというような問題は確かにあるのですが、それだけならば、言われているように公的資金を導入すればいいという話になる。問題はそうではなくて、本当に潰されてしまったら、ダイエーの人は、佐藤工業の人はどうなる、という話になって、「あなたが言ったのでしょう、あなたの言った通りに投資したのでしょう」ということになってしまうという部分にあるわけです。そう言われた側の銀行は困るし、そのバックにいる政治家はもっと困る、ということで話が進まないのではないかという問題です。今も、ダイエーが不良債権の処理計画、再建計画を出した時に「後戻りだ」「背景に色々あるのではないか」と批判がされますが、その「背景」というのが今私の言ったことであるわけです。 ですから日本の不良債権問題を考える場合には、金額規模がどうだとかいうこととは別に、その背景にある問題が解決されなければならない。そしてこれは、小泉さんがおっしゃっている「構造改革」において、何を本当に変えなければならないかという問題です。つまり、かつてはそういう官僚・政治家・企業のスクラムがうまく回っていたのが逆回転でうまくいかなくなった、これを断ち切れるかどうかというのが不良債権問題に関する構造改革なわけです。だからまずはこれを解かなければならない。 そしてもう一つの問題は金額です。表面的には去年の9月末で35、6兆円。少し増えて今39兆円だと言われていますが、その一方でアナリストなどは100兆円と言う人もいるし200兆円と言う人もいてよく分からない、ということで、この金額をどうはっきりさせるかという問題がまずあるわけです。これについても「検査を厳しくします」と言ってきたわけですが、現実には97年から現在まで何の変化もない。去年の9月にマイカルが倒産した時には、大きなアドバルーンを上げて「特別検査を実施します、市場のシグナルも導入します」と言いましたね。これは株価が下落した場合を意図しているわけですが、額面を割る株価が出てきた場合には、それに応じてその企業の検査を厳しくして、例えば三分類などにします、という話です。短期間にやって結果を出すということだったのですが、結局まだ現時点では変化がない。そして今月になってまた同じことを言ったわけです。デフレ対策の六項目の中に「厳しい検査をする」という言葉が入った。この「厳しい」という言葉がまた非常に簡単に使われてしまっているのですが、何をもって「厳しい」のか、というのがそもそもの問題で、「厳しい検査」なんてこれまでのところできていないわけです。 出来ない理由を今から申し上げますが、「厳しい検査」という言葉に惑わされてはいけないのです。検査マニュアルというものがあって、これは金融庁のウェブサイトにありますので見て頂ければ分かるのですが、この検査マ二ュアル通りに検査をすれば、今の数字は正しいのです。「二分類、一分類の企業が実は三分類なんだ、銀行はいい加減なことをやっているのだ」と言われているのですが、そうではなくて、検査マニュアル通りに検査をすれば、今の数字は正しいのです。ですから100兆円、200兆円などというのは嘘であり、公式に発表されている数字は「定義上は正しい」のです。このマニュアルがある限りは絶対正しくて、いい加減なことは一切していない。銀行の人だって何も嘘をついて生きているわけではなくて、書いてある通りのことをした結果なのです。 ですから、むしろこの検査マニュアルを変えずに「厳しい検査をする」或いは「引当を増やせ」と言うのが矛盾しているのです。検査マニュアル上やらなければいけないことをやった結果が今の金額であり、またその結果の分類が例えば二分類であるわけですから。法律によって違うのですが、二分類の場合は多くても15%引当金を積んでおけば充分である、平均的には3、4%積んでおけばいいというふうになっているのです。それにもかかわらず、「60%、70%積め」と言うのが今の政府が求めていること、或いはアナリストやエコノミストなど「専門家」と言われている人達が言っていることなのです。こんないい加減な話はないです。ルールとして決められているものに「15%が上限」と書いてあるにもかかわらず、「その15%はいい加減だから、70%積め」と、同じ政府監督当局の間でこういう議論をしている。そこにおそらく問題があると私は思います。 ですから、去年の9月と現在を比べて何も変わっていない理由を考える場合に何が問題かというと、ルールを変えない所に問題があるというわけです。逆に言うと、「これから数ヶ月の間に答えが出る」というふうに言われていて、或いは竹中さんは「結果は出るはずである」ということを言っているわけですが、それによってこれまで二分類だった企業が三分類、四分類になるとか、或いはこれまで二分類で15%だった引当金が50%、70%になるようなことがあったとしたら、これは横暴もいい所であって、本当はそういうことが起こってしまってはいけないのです。では現実にそのマニュアルを変えて検査するのはいつからなのか、ということなのですが、これはもう金融庁の人に聞くしかない。また変えなければならないことというのは非常に簡単で、これは96年に一度導入したマニュアルを使えばいいだけなのですが、そこの原点に戻ってやらないと実際にはできません。 というわけで、実はルールに違反したことは何も行われていないというのが事実なのです。銀行の体力がないと言われることについても、少なくとも今自己資本比率が10%以上ありますので、公的資金をもらう必要もない。そういう現実を置いておいて、感情論として「不良債権問題が大変だ」「銀行の経営が大変だ」「公的資金導入だ」と皆が騒ぐ所が間違っている。やらなければならないことは、「厳しい検査」という言葉はあえて使いませんけれども、検査マニュアル上何が二分類、三分類かということを、本当に間違っているのであれば、もう一度定義をし直して、その定義に基づいて検査をする。その結果新たに不良債権が出てくるのであればそれを処理する、そして正確な金額を公開するということです。そうすれば、その数字がはっきりして、それさえ処理すればいいということで世間からの疑いの目が消えていくわけです。 |
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| 結局、不良債権問題における最後の大きな問題は、この「疑われている」ということですから。何をしても、真剣にやっても「嘘なのだろう」「銀行・金融庁は嘘をついているのだろう」と言われてしまう。そういう所に根本的問題があるので、これを取り除かなければならない。けれどそのためには、数字さえ大きいものを出せばいいということではなくて、「ルールが変わりました、そしてルールに法った検査をしました、その結果一・二分類の引当金を増やすのではなくて、この企業が三分類になったから引当金が70%になりました」というロジカルな議論をしなければならない。ですからおそらくそう簡単には状況は変わらないだろうと思います。数ヶ月で解決すると言われていますけれども、私としては1年経っても解決しないのではないか、という気がします。仮にこれを数ヶ月で処理するのだとしたら、かつて戦後に封鎖預金というものがあって国民は一斉に預金を取られたわけですが、それと同じで政府の権限に基づいて一方的に処理されるという無政府状態、法治国家でないことが起こってしまう、ということなのだろうと思います。 |
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| ちなみに、「あなたは不良債権がいくらくらいだと思うのですか」と言われれば、確かに30、40兆でなくて、私なりに試算してみると100兆くらいあるのかもしれないという気はします。ただその数字が100兆だったら大変なのかと言われてみれば、100兆で済むのだったら大したことはないですよね。日本のGDPは500兆くらいあって、100兆を一度に解決すると言ったら問題ですけれども、とりあえずは公的資金を導入してもあとは何年間でどう解消していくかという問題になるわけですから、金額さえはっきりすれば道筋がつく、というふうに思います。次にやるべきことは論理的に今言ったことを進めることです。時間はかかるかもしれませんが、私が日銀で仕事をしていた時の「市場との対話」という観点から言えば、正しいことを論理的に進め始めれば市場はそれを見ますので、信頼はその瞬間から回復する。ということですから、「不良債権問題が4月に解決する」というようなことは実はそれ程重要ではなくて、不良債権処理のステップが始まるということさえアナウンスされれば市場の信頼は回復していくというのが本当に大切な点なのだと思います。
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| つづきはこちら 文責 木下史子氏氏(ありがとうございました) |
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