| 「日本経済危機」
2002年2月20日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC) AEI主任研究員 酒井吉廣氏 (つづき)
座談会参加者:
酒井吉廣 (AEIアメリカン・エンタープライズ研究所 主任研究員)
愛知和男 (元防衛庁・環境庁長官)
平林栄次 (経済広報センター)
加納雄大 (国家公務員)
和田絵里香 (IIE国際経済研究所 客員研究員)
遠藤 俊英(IMF財政局 アドバイザー)
安井明彦(富士総合研究所NY事務所)
上野真城子(アーバン・インスティテュート研究員)
司会 村上博美 (ESI経済戦略研究所 上席研究員)
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平林: 金融庁のマニュアル・不良債権の分類に関してですが、国際的なコンセンサスというのはあるのですか。1月からIMFの検査が入りましたが、どのような分類でやるのでしょうか。
酒井: IMFがどういう条件を持っていくかというのは分からないのですが、まず国際的ルールがあるか否かということについては、世界的にアメリカかイギリスでできたマニュアルを前提として動いていますからそんなに大きな違いはないのです。ただ、IMFが気付くかどうか分からないですが、大きな違いが一つあります。アメリカのマニュアルを見たことのある方がいれば分かると思うのですけれども、日本のマニュアルはほとんど物真似と言われてもおかしくないほど同じことを一生懸命導入しているのですが、「金融機関の支援があり、その支援の下に再建計画があり、その計画が計画通りに進められているという証明さえあれば、二分類乃至は一分類にすることは可能だ」という項目がよく見るとあるのです。そこがアメリカやイギリスのルールとは大きく違う。 |
例えばダイエーは、一分類か二分類に分類されているけれども、「実質的破綻」或いは「破綻懸念先」なのだということが、この1年間ずっと言われてきました。この違いがどこにあるのかということを今の問題点、検査マニュアルの違いを使って説明しますと、コンセンサスとしては破綻しているけれども、ダイエーの主要銀行の数行は、この破綻しているダイエーを5年の再建計画で再生させようとしていて、「この再建計画に基づいて経営が行われています」ということを銀行側が証明すれば、その瞬間に三分類、四分類から少なくとも二分類に動かすことが出来るということなのです。そこが最も違う点で、仮にIMFの人が自分達のマニュアルを持ってきてやっても、そこを無視してやれば違う結果が出てきます。ただIMFがやることというのは、おそらく言葉の問題もありますので、どこまで分かってやれるかというのは結果を見てみないと分からないと思います。
平林: 私もこういう問題については素人ですから「銀行が悪いのではないかな」と思うのですが、日本人以外の人に言われるとあまり気分がよくないものですから、「IMFが今調べているからその結果が出ればいいではないか」というような言い方でごまかしているのですけれども、そういう言い方が正しいのかどうか不安なものですから。
酒井: 正しい結果が出て欲しいとは思いますけれども、市場の反応というのは大体分かっていて、オフィシャルな数字がそう変わらなければ「IMFもやはりよく分からなかった」という目で見て、再び不安感が強まるということになるでしょうね。
平林: そうであれば、逆にIMFは何も発表しないかもしれないですよね。
酒井: それはありますね。
遠藤: 私はIMFの職員ですので、そのあたりの事情を説明します。今回のIMFによる銀行検査というのは、アジア危機などの反省を踏まえて始まったFSAPと呼ばれるIMFの新たなイニシアティブで、メンバー各国の金融制度とその健全性を網羅的に調査しようとするものです。MAE(金融局)という部署が担当しています。(http://www.imf.org/external/np/fsap/fsap.asp−)今月、日本へのFSAPの最初のミッションが派遣されましたが、今回のミッションそのものは、まずは財務省の方に行って国債の話をしているということですから、まだ本題には入っていません。ミッションに一回行ってすぐにレポートが出きるわけではなく、これからも何回か継続した議論がIMFと当局との間で行われるでしょうから、1年とか1年半とかかなりの時間がかかるのではないでしょうか。IMFが独自のマニュアルを持っているかについては、私は別の局なので正確なことは言えないのですが、おそらくないと思います。けれど、FSAPのメンバーはまさにアメリカの金融監督をしていた人とか北欧の金融監督をしていた人を揃えていますから、そういう人が日本に行けば自分達の経験上どういう監督をやってきたかということを基準に仕事が出来ると思うのです。
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問題は、IMF独自の基準というものを持って行って日本の基準は間違っているということを公にするかというと、それは考えにくいのではないでしょうか。FSAPのレポートは今までまだ数カ国しか出来ておらず、先進国では確かカナダだけだったと思いますが、レポートそのものは基本的には公表していません。膨大なペーパーを作りますけれども、あくまで理事会の参考資料として作成されるもので、対外的には公開しないというのが今までの取り扱い方でした。日本は特別という議論もあるかもしれませんが、IMFが乗り込んできて一刀両断にやってくれるのではないかという期待があるとすれば、それは現実的ではないだろうと思います。 |
酒井: 難しいと思うのは、IMFの動向が結構日本で注目されてしまっているということです。注目されてしまっている以上は時間と共に「どうなっているんだろう」という話が出るわけですよね。そうなってくると、正式なアナウンスがなかったとしても、次第にIMFで働いていたというような人の発言が皆の注目の的になってくる。そして例えばその発言に微妙な変化が出てくると、「やはり日本は・・・」ということで、さらに日本売りが加速するかもしれないという問題が起きてきます。そうすると「日本の信用度」というものがコントロール不可能になってきますよね。
村上: ブッシュ政権が見ている日本経済の問題と現実とではギャップがあるというお話がありましたけれども、アメリカのシンクタンクで働かれている方は、アメリカ人の見ている問題と問題の本質におけるギャップというのは実際に感じられますか。
和田: おっしゃられたように、不良債権とデフレの問題があまりにクローズアップされてしまっていて、「それさえ良くなれば何とかなる」という所に目が行き過ぎてしまっているという気はします。アメリカが見ている所もそうですし、日本の中でもそうだと思うのですけれども。消費マインドを良くする為にどうすればいいかということについては、10年以上前、バブルが崩壊した時から「内需を拡大しろ」ということが言われ続けてきて、日本もその前からどうすれば消費が増えるのか、貯蓄性向が下がるのかということをずっと議論してきた。その一つの答えとして、不良債権の処理が始まってデフレがストップすれば皆が物を買い出して経済が上向きになるのではないか、というように、きっかけとしてこの問題を使いたい、と目を集中させているのではないかと思うのです。
IIEのアダム・ポーゼンも色々と言っていますけれども、これを試してみてこれにも手をつけてみてと様々なことをやったけれども「結果が出ない」というのは、アメリカ人は嫌いなのだろうというのは感じます。努力しただけでは駄目、結果がでないとだめだということです。「努力するのが当たり前で、その結果を出さなければ何もならないではないか」という価値観については、経済だけではなくてアメリカ社会自体がそういうことで成り立っている部分があるので、やはり結果を見せないとアメリカは納得しないという所があると思います。
ただ、以前IIE所長のフレッド・バーグステンなどが “No More Bashing;
Building a New Japan-United States Economic Relationship”の中で書いていますけれども、アメリカの政権なり、ワシントンのシンクタンクの中における日本の位置というのはどんどん低下していて、現在ほとんど見向きもされない状態になっています。「貿易赤字がGDP比3%」と言ったら昔は皆大騒ぎしたのが今はそれほど騒ぎませんし、中国の台頭もあるし、日本経済が悪くなってもそれ程アメリカに影響がないということが、この10年間で逆に変な形で証明されてしまった。「それならどうしてアメリカが日本を世話してあげないといけないのだ?」という方に向かうのではないか、これからはもっと放っておかれるのではないかとも思うのです。それがいいことか悪いことかというのは別にして。安全保障の分野では北朝鮮や台湾の問題もあって日本の動きは重要だけれども、ヨーロッパも一つの国のようになりつつありますし、それを考えると経済的な地位ということに関しては、日本は本当に周辺化されてしまう。ですから、ブッシュは「日米関係の重要性」ということを一生懸命言っていますし、今回ブッシュ大統領が日本に行ったので少しまた表に出てきていますけれども、実はそれ程重要視されなくなってしまうのではないかと思うのです。となると、外圧頼みというのはそれ程当てにならないし、それで変わるのだったら今までに変わっているのでしょう。
酒井: 外圧が重要かどうかというのはよく分からないですけれども、国民性の違いのようなものも一つあるのかなと思います。70年代後半からアメリカが不況に入ってきて80年代は特に悪かった。その時に日本人はアメリカの国債を買い、アメリカの破綻しそうな企業の優先株、或いはアメリカの不動産を買いました。アメリカでは「日本があのロックフェラーセンターを買った」と批判になった件についても、実は日銀にいた時、仕事上中身を見たのですけれども、不動産鑑定士が「信じられないくらい高い値段だ」と言うくらいのプレミアムをつけて買っているのです。単に知らずに買ったのか、或いは「アメリカの状況を考えると、ロックフェラーという大切なアメリカの家系に関係のあるものだから、高いけれども買うのが大事なんだろう」と考えて買ったのか、本当に買った人に聞いたわけではないので分からないのですが、それくらいのことを結果的には日本はしてきているのです。そして、「当時の日本がこういうことをしたので、今度はアメリカがしてくれてもいいだろう」という気持ちが
どこかにある。
この辺りの意識のギャップというのが、去年の暮れにオニール財務長官が日本に行った時の、塩川財務大臣との意見のすれ違いの背後にあって、塩川さんの側からすると「円安を認めてくれたのではないか」ということだったのですが、即座に「そんなことはない、甘えちゃいかん」という話になる。つまり、似たようなことを言っていても実は話がすれ違っているということになるのだろうと思います。ですから日本側としては、外圧を求めるか否かという話とはまた別に、アメリカ依存というものはまず捨てなければならないということなのでしょうね。1985年のプラザ合意以降、日本は内需拡大に取り組みましたが失敗したわけです。要するに、一言でまとめてしまえば「アメリカ依存型経済からの脱却」に失敗した結果が今なわけですから、そこからもう一度立て直していかなければならないということだろうと思います。
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村上: 私もこの間、上司と一緒に日本に行ってきまして、特に外資系金融に勤めている外国人のエコノミスト、日本の学者、政治家など30人くらいの方とお話したのです。特にアメリカ人が持っている危機感というのは非常に大きくて、「日本経済は本当にクラッシュしてしまう、2月3月でも危ない」という感じだったのですが、それに比して日本の方は「何を言っているんだ、そんなこと起こるはずはないじゃないか」という感じで、大きなギャップを感じたのですけれども、果たしてどちらが現実に近いのかというのは話を聞けば聞くほど分からなくなる。それに関しては酒井さんはどう見られていますか。 |
酒井: クラッシュが現実に起こるか起こらないか、特に3月末に起こるか否かということで言えば、政府として「起こらないのだ」というふうな政策を取っているわけですから、おそらく起こらない。例えば最近の話題で、空売りの規制が強化されているということがありますよね。これはある意味正しいことをしているのですが、見方を変えれば株式市場の自由度を削いでいるわけです。ですから株が下がることを前提とした問題を取り除いているわけです。これは96年から97年に何が起こったか、北海道拓殖銀行がなぜターゲットになったかということにも繋がるのですが、拓銀の優先株が7、8月頃に売られて一気に下がり、また一気に買われてぐっと上がる、というふうに非常に高い変動を示すということが起こったのです。それがある時に買う人がいなくなってクラッシュしてしまった。今の日本にとってもこういう問題が恐いわけです。どこかの銀行や大企業の株が下がった時にまた上がればいいのですが、すとんと落ちてしまうということが一つ起これば、不安だと言われている企業は危険だということで皆売られてしまいますから。そこで入ってきたのが空売り規制だという目で見れば、株式市場が今完全に規制市場になったという見方も出来るのです。さらに、去年までははっきり否定していた公的資金の導入というのも、まだ反論もありますけれど、いざとなれば出せるという方向で固まってきている状況があります。そういう所さえ固まってしまえば、2月3月というのは結局倒産もしないし再生もさせないわけですから、このままストップということで、ストップしている以上は破綻もしないし危機も起こらない、ということでしょう。去年の12月に民事再生法を申請した企業が増えましたよね。あれと同じようなことが今起こっていれば危ないかもしれませんが、そういうことも今減っているわけです。ダイエーに象徴されているように。とにかく今はそういう部分での動きがないわけで、動きがない以上危機も起こらない、ということではないかなと思います。ただ、これは先送りですからどこかで起こるかもしれない。
平林: 今国債がどんどん増えて借金が増えているけれども、マクロ経済学的に言うと国債の中立命題というのがあって、また国債で借りればいいではないか、ということになりますよね。要するに今足りないのは需要なのだから公共事業でやればいいではないか、それをやればともかく需要は増えるから少なくともゼロ成長くらいにはなるし、お金も流れるからデフレもなくなると。サマーズが98年に日本に来た時に提案したのはそれだし、前のブッシュ政権の時も確か「10年くらいで何百兆円かの内需拡大中心でやるべき」と言っていたと思うのですが、なぜそれをやらないのでしょうか。またそもそもそういう議論というのは経済学的に言って成り立ち得るのですか。
酒井: 国の財政の資金繰りが回るという前提で考えてみると、先程も言いましたように、仮に3年で本当に構造改革の成果が出てきて景気が回復するというのであれば3年間持たせればいいわけですから、今こそケインジアン政策を導入すべきなのです。おっしゃるように財政を積極的に使って公共投資をすればいい。3年間とにかく無理をしてもやれば、どんなに波及効果が落ちたと言っても公共事業の乗数効果は最低1は絶対あるわけですから、それをやれば何とか失業も増やさずに持たせることができるのです。ですから竹中経済大臣の言っていることを前提に考えれば、経済学上、今公共投資などの財政の積極的出動をするというのは決して間違いではないし、正しい判断とも言えるわけです。「3年間」というのが事実であれば、やった方がいいかもしれませんね。
上野: けれどそれも非合理的ですよね。竹中さんの構造改革の工程表を見ても、「3年経ったらよくなる」とありますけれど、どこにその保証があるのか、その辺りの論理が全然ないですよね。酒井さんのお話を聞いていて、私はやはり日本は非合理な国、合理性のない、論理が通じない国だと思います。その中で論理的なことをどういうふうに入れていくのか、とい部分が出来ない限りは先が見えないのではないかと感じてしまいます。
酒井: まさしく非合理的なので、証明のしようがない、信頼して下さいと言うのが難しいという部分があります。もう一度公共投資と絡めてお話をすると、既にこれまでも一生懸命公共投資をしてきました。93年くらいから巨額な財政出動をした結果が今の巨額な財政赤字につながっているわけですけれども、その成果が本当に何もなかったのかというと、実は95、96、97年と経済成長はプラスに向かっていたのです。ですから今言った3年間という期限がなくても、経済学的に見て或いは実質的に、公共投資が景気回復に結びつかないのかと言うと結びつく可能性は実は極めて高い。経済学的にはそれは間違いなく証明できるのです。しかも実際にあの「失われた90年代」でも96、97年は回復の兆し、2%強の経済成長を本当に見せたわけですから。消費税を上げたから或いは、同じ頃に銀行の倒産・金融不安が起きたから再び悪くなったというような説明がされてしまうのですが、そういうおかしな説明を除いた上で、今後経済運営が上手くいくということであれば、財政出動を積極的にやるというのは間違いではないと私は思います。ですから、歴代政権が言ってきた「とにかく景気回復が先だ」という方針は安易に批判されるべきではない。
和田: 忘れてはいけないのは、公共投資をすれば確かにその分GDPに計上されて成長率は上がるでしょうけれど、それに伴うコストが大きいということだと思います。それはお金の上でのコストだけではなくて、公共投資が実際に景気回復につながっていけばいいのですけれども、100兆使ってそれで終わりでは困ってしまうということです。公共投資という形で橋を作ったり道路を作ったり、それが本当に経済波及効果がある、つまりそれによって本当に経済活動がもっとアクティブになるような使い方がなされればいいのですけれども、そういう公共投資を選ぶことが非合理的な日本ではとても難しいわけです。ですから逆に、公共投資がなければ潰れてしまうようなゼネコンなどが生き延びてしまう。その生き延びてしまうということについて、「失業率が上がらないのだからいいではないか」と考える方もいるかもしれませんが、それが非生産的な部門だとすれば、そこにいる人達がもっと生産的な部分に移ってくれた方が経済全体にはいいわけですよね。ですからすごくアメリカ的に考えれば、どんどん切ってしまえ、ということになるのだと思います。100万人でも200万人でもどんどん失業させてしまえ、と。そのうちもちろん何人かは生産力がなくて一生、生活保護を受けていかなければならない人もいるかもしれない。それはそれで政府が面倒を見ましょうと。けれども、その中の例えば80%くらいの人がもっと生産性の高い所に移ってくれれば経済が盛り上がるではないかということを考えると、公共投資をすることによって延命された非生産的な部門がどんどん広がっていってしまうことに伴うコストが大きいような気がするのです。経済が右肩上がりで富の再配分をしていればいいだけだった時にはお金の使い方を真剣に考えなくてもよかったのですが、これから税収がどんどん少なくなってくるということを目の前にしている時に、100兆使ったら100兆しか上がらないようなお金の使い方をしていたのではあまりにも投資効果が低くて金利分だけ損するのではないか、と思うのです。
平林: 経団連も一緒で、投資効率、乗数効果をきちっと考えた効率的な財政運用をしてくれと言っていますよね。
和田:ですからそれをするためには、「官」では駄目だということです。やはりコスト観念がないというか、民間と違って上がりをあげなくていい所ですから、そういうことができない。ですからもう少し小さい政府にしてそういう部分をなるべく民間に降ろしていった方がいい、というがアメリカの流れですよね。もちろん色々と変化はありますけれども。ただ日本の場合にはそういう大きな流れがなくて、景気回復の為にばんと使ってみて、駄目だったからとまた引き締めてみて、というストップ・アンド・ゴーを繰り返していたからいけないのではないかと思うのです。
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