同時多発テロ

■ PRANJ緊急レポート NY・ワシントンDCより        2001年9月18日
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先週の火曜日のNY及びワシントンDCでのテロで、アメリカの空気は一変しました。
日本ではそのことがあまり報道されていません。漠然と私達が感じるのは、これから「安全」というものが高くなり、政治・経済・社会的に不安な世の中になるということです。過去10年間は冷戦崩壊後比較的「平和」な期間でしたが、このテロを境に今までとは違う時代に突入したと言えます。PRANJでは、 テロの現場アメリカでメンバーが感じたことを日本の皆様にお伝えしたいと思い、緊急レポートします。

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 ■ 上野真城子  :アーバン・インスティテュート研究員

9月11日午後2時半、すでに深閑としたオフィスのエレベーター・ホールで所長のロバート・ライシャワーと行き逢い「これはどういうことだろうか」というと、彼は一瞬おいて「It is the beginning of the new era.」と明瞭に答えました。 新しい時代の始まりを告げているのだと。

9月11日のテロリズムは、アメリカの理念・価値である「市場・民主主義」の象徴を破壊することで、その価値を否定しようとしたものでしょう。アメリカ文明と価値と理念を破壊しようとする試みに終局的な勝利はないとはいえ、それへの反感と嫌悪はアメリカ以外には根強くあります。「アメリカの価値が世界に普遍性を持つ」という、21世紀をかけてなお有り得そうもない難しい使命と任務を持ってしまったのも、またアメリカです。新しい時代の始まりとは、アメリカの「ミッション・インポッシブル」へアメリカ自身がどう関与しつづけるのか、この挑戦を突き付けたものといえます。

アメリカはしかしその完全だとは言えない「市場・民主主義」を持って、この「市場・民主主義」への挑戦を受けなければならないわけです。その用意は決して十分でないものの、他の国よりは用意が出来ていることは、テロリズムの直後からアメリカ社会全体がパニックに陥ること無く、様々なレベルで迅速に対応したことにも端的に表れています。これは、個々のアメリカ人が、今自分が出来ることは何か、どこで何をすべきかを考え、決める力があるからでしょう。市民の役割、民間の役割、メディアの役割、国家の役割というものを、国家から言われたことではなく、個々の市民が、自ら考え、自ら選び取った生き方において、知っていることです。それが社会全体として機能しているは、人々が必要なことを知らされ、オープンな社会があるからです。これがアメリカの理念・価値の下でのこれまでの努力の成果であり、これ
がこの国の強さです。

しかし、このようなアメリカの「成果」は、アメリカの外からはとても見え難く、それを理解することはさらにとても難しく、この大きな理解の落差を埋めることは相当に困難なことであるのです。テロリズムまでにいかなくてもこの理解の落差を埋める作業は膨大なエネルギーと資源がかかるものです。この作業にアメリカは大きな犠牲を払ってかからなければならないというのが、この新しい時代の課題です。

私の仕事場にもこの惨事で愛するものを失った人がいます。個々人が迎えた限りない喪失にやりきれなさを覚え痛みながら、この「容易に勝利の見えない新しい時代の課題」にどう取り組むのかを、今、アメリカ人は深く考えていることでしょう。これからの困難な時代を切りぬけられるかどうかは、大変なことです。ただ私がこの中で最も大切だと思うことは、アメリカの人々が、ひとりひとりの人間の、命とその尊厳、自由を、何にも増して大事な価値として持ち続けていることです。犠牲者の名前をひとりひとり流し続けるラジオを聞きながら、この健全な価値がある限り、アメリカは新しい時代の課題にこれからも果敢に挑戦し続けられるであろうと思います。

               アーバン・インスティテュート研究員:上野真城子

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 ■ 青山公三  :IPA ニューヨーク大学・行政研究所上席研究員

 「ニューヨークの現場から」

ニューヨークに住んでいる私がこの機会にぜひ日本の皆さんに伝えたいと思って、キーボードをたたき始めました。私は事件当日、マンハッタンに向かう通勤電車の中で女房からの電話と車内放送で事件を知りました。グランドセントラル駅の一つ手前の駅付近から、煙をあげるワールドトレードセンター(WTC)が垣間見え、事の重大さを認識しました。

マンハッタンのグランドセントラル駅に着いてから、地下鉄が動いていなかったので、WTCがよく見える5番街を、42丁目から4丁目まで、煙をあげていたWTCを見ながら、1時間くらいずっと歩いてワシントンスクウェアパークにたどり着きました。

10時頃、23丁目付近で、周りの人達が突然大きな声をあげたのでWTCの方を見ると、第2WTCが消え、すさまじい白煙があがりました。さらに下って、10時半頃、ニューヨーク大学近くのワシントンスクウェアパークで第1WTCの崩壊する瞬間を見ることになってしまいました。2番目の崩壊の際は、比較的近くにいましたので、大音響とともに、ガラスなどが飛び散るのが見え、まるで映画のワンシーンを見ているようで、信じられない光景でした。周りの人達も私も思わず 「Oh My God!!」と叫び、騒然となり、多くの人々が泣いていました。自然災害ならともしらず、こんなことが人為的におきるなどというのは許せません。阪神大震災の時の高速道路が倒壊したのもショックでしたが、今回は人為的な事件ですから、余計怒りが込み上げてきました。

オフィスに着いたら、知り合いから運良く電話が通じ、グランドセントラル駅も閉鎖になったとのことで、家に帰れるかどうかが心配でしたが、またグランドセントラル駅まで歩いて行きました。電車の運行再開を待ち、約4時間かかって自宅に帰ってきました。歩いている途中、所々で軍隊が出動して交通整理にあたっているのを見て、その対応の早さに驚きました。また空港が閉鎖されているはずなのに時折爆音が聞こえると、みんな一斉に空を見上げ、それが空軍機であることを確認して、ホッとしたりしていたのは印象的でした。さらに、黒人のボランティアらしき人が、「We Need Your Blood !!」とプリントされた献血を呼びかける紙を配り、あちこちに張りつけているのを見かけました。事件から3時間も経っていないのに、事後の結果を予想して、すばやい対応が進められていることを感じました。

この事件直後の市や警察、消防、そして連邦政府などの危機管理は、日本ではあまり報道されていませんが、なかなか統制がとれて見事なものに思えます。もちろん、私は事故に直接関わっていないからそう言えるのかもしれませんが、日本の阪神大震災の際の状況に比べれば、はるかに良く思えます。

市はジュリアーニ市長の指揮のもと、軍や周辺各州へのレスキュー部隊の応援要請はもちろんのことですが、それにあわせて、州外からのレスキュー隊のために、マンハッタン中のホテルを最大限確保し、民間人はできるだけマンハッタン外で泊まってもらうようにしたりしています。また、少なくとも翌日にはウエブサイト(http://home.nyc.gov)も含めて、献血の呼びかけ、 受け付けとそのネットワーク体制の確立、ボランティアの受付・配備体制、行方不明者の申請・検索体制、被災者達の避難所や生活相談体制、地域の交通管制体制など、即座に人間重視の体制が出来あがってきています。事件後3日で行方不明者の数が詳細に発表できたのもこうした体制のおかげです。

また、事件当日には、「The September 11th Fund」(www.uwnyc.org)という災害基金もいち早く設立され、募金活動も始まっています。こういう迅速な体制づくりは、ぜひ日本も見習いたいものです。

もっとも、ボランティアは事件後4日目の15日には、テレビで「ボランティアはもう十分だから、むしろ家にいて寄付をお願いします」との放送がされていました。過剰にボランティアが集まり、登録場所のジェイビッツ・コンベンションセンターでは、登録したけれども、何も仕事をさせてもらえないという人達も出てきています。行方不明者の数も、こういう登録システムを報道で知って、新たにその数は増加していますが、着実に情報は集約されつつあります。

アメリカのマスコミの対応も、大変手際良いものがあります。事実を客観的に伝える一方で、上記のような危機管理の体制情報を事件直後からテロップや画面でずっと流し、どこに連絡すれば何がわかるか、何ができるか、交通事情はどうかなどがしっかり伝えられています。こいう危機の際のマスコミによる情報伝達の姿勢にも大変感心させられます。もちろん被害に遭った人々やその家族の心の中に土足で踏み込むようなことはせず、インタビューなどの際には、客観的な事実を中心に聞くように心がけているようです。

もう一つお伝えしたいことがあります。私のオフィス及び所属するニューヨーク大学は、事件当日はもちろんですが、翌日そして翌々日も閉鎖で、自宅待機でした。驚いたのは、息子がセントルイスにいるのですが、彼の大学は、事件当日と、事件の翌日は全授業が休講だったとのことです。ニューヨークやワシントンの人達が悲しみに明け暮れているのに、授業をしている場合ではなく、テレビなどを見て、悲しみを分かち合おうということだそうです。

さらには、息子はセントルイスでニューヨーク・ナンバーの車に乗っているのですが、車を止めていると、周りの人達がみんな、家族は大丈夫だったかと聞くというのです。サンディエゴのあるソフトウェア団体では、事件翌日に予定していた会合をキャンセルするとのメールが届きました。サンディエゴ地域の人々のみによる会合であったにも関わらずです。大リーグは17日に再開となりますが、マリナーズのビネラ監督は、「野球をする気になれないが、それが仕事だから仕方がない。しかし、野球でもって、少しでも人々の気持ちを明るくできればと思う」と述べています。マリナーズは地区優勝しても祝勝会は行わないそうです。またアメリカ各地で連日のように追悼ミサが持たれています。

このようにアメリカ人が、ニューヨーク、ワシントンで起きた出来事に、一様に本気で悼みを共有し悲しみを分かち合おうとする姿勢は、日本人には乏しい感覚ではないかと思います。そこにアメリカ人の本当の意味でのボランティア精神というか、包容力あるいは愛国心を感じさせられます。各地のミサでは国歌が厳かに歌われています。

ただ一方で、息子の大学で、アラブ人というだけで、非難や中傷が繰り返され、ついには大学のホームページから一時的に学生のリストが削除されるという事態も起きています。今回の事件が、結果的に無実の人々までをも傷つけ、後々、世界を破滅に導く、第3次世界大戦の引き金にならないことを心から祈っています。

私の友人の1人も未だに行方不明です。彼や他の行方不明の方々がどこかで生存されていること信じ、ただただ祈るばかりです。

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 ■ 植田健一:国際通貨基金(IMF)エコノミスト

今回のテロへの対応を観察して、私にはアメリカ社会の長所と短所が際立って感じられました。

 まず、長所としては、政府関係者から市民のボランティアにいたるまで、迅速にそして真剣に、対応していることでしょう。ペンタゴンへのアタックへの僅か30分ほど後にはワシントン中心部の政府関係オフィスは全く空となりました。すぐに全国の空港が封鎖されたことなど、いざというときの危機管理の迅速さには感心しました。

 しかしそれにも増して、ニューヨーク及びワシントンで、献血のための行列がすぐにできたことは胸を打ちました。土曜の今朝は、いつも行くスーパーマーケットの前で、数人の大学生が自分たちで作ったマフィンを赤十字に募金するために売っていました。このような草の根のボランティア精神、または市民共同体意識というのは、これまでも感じておりましたが、ここまで強いとは思いませんでした。このような市民共同体意識は、実際に受け継がれているとともに、民主政治の基盤となっているということを、見せつけられている気がします。

 短所は、戦争に関する嫌悪感が殆どないことではないでしょうか。金曜日には一人を除くすべての国会議員が、大統領に軍事行動を含むあらゆる手段をテロの首謀グループにとることを許可する法案に賛成したようですが、あまり議論がなかったようであり、一部テレビ報道でも、これはベトナム戦争開始時に似ており、その後大統領の行動を抑止することができなくなった経験を、十分に踏まえてないのではないかと言っておりました。

しかし、こうした意見はごく少数で、殆ど全てのマスコミ、そのインタビューに応える市民は、軍事行動を積極的に支持しているように思われます。私自身は、分析能力に欠けていることから確固とした意見を言うことはできませんが、こと軍事行動の開始に際しては、もう少し時間をかけて、国会で専門家の意見を十分に聞きつつ議論を詰めるべきではないか、と思います。いつもは冷静で理知的に外交を行っている国が、こうも情緒的に流れるのは不思議です。

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 ■ 村上博美  :ESI 経済戦略研究所 研究員

日本の報道では「対岸の火事」という見方が多いようですが、それは大きな間違いではないでしょうか。世界貿易センターは世界の金融センターの中心であり、その機能が滞るということはアメリカ経済に大きく依存している日本経済、アジア・ヨーロッパ経済に大きなダメージを与えます。このテロを引き金に世界恐慌が起こる可能性もあるという警笛を多くの人が鳴らしています。

アメリカ経済も回復の兆しが見えていないまま、ヨーロッパ、アジア経済が急速に減退しています。世界同時に悪い状態のサイクルへ突入するのは初めてではないでしょうか。この最悪のタイミングにテロがおき、世界の金融センターであるNY市場は数日間も閉鎖され、短期的に与える株価への影響が懸念されています。世界経済が、安全と平和という環境の上に成り立っているという自明の原理を再確認したということではないでしょうか。

なぜ今回のテロが「対岸の火事」ではないのでしょうか?日本が「中立」という立場をとるならば、日米安保を解消し、G7から脱退するぐらいの決意を持たなくてはなりません。しかし、現に外交政策として現状維持(つまり日米安保を機軸とした体制)をとるならば、テロリストのターゲットとなることを覚悟しなくてはなりません。

具体的に日本の経済・社会機能が壊滅的なダメージを受けるのは、例えば、1)首都高や福井県の密集した原発群への爆弾テロ2)化学兵器(サリン等)によるテロ3)生物兵器(細菌、ウイルス)によるテロです。

特に生物兵器が恐ろしいのは1)と2)は局地的被害に留まるのに対して、目に見えないうちに全国に瞬時に広がる上、最悪の場合、対処・治療方法がないまま時間の経過と共に細菌が無限に増え、被害者も無限に増えつづけます。また現在の日本では、阪神大震災やサリン事件で示されたように民間・政府・市民の系統だった危機管理の対応が十分に期待できないということがあります。これらのどれかが起こった場合、社会的混乱はさけられず株価が大幅に下落するでしょう。なぜならば現在の日本の株価は外国人投資家の影響が大きいからです。首都機能が動かず、迅速な対応も取られないとなると、外国人投資家は日本に対する信用をなくし一斉にお金を引き上げます。そうなると株価急落に伴って、日本の会社はばたばたと倒産していきます。

今後最も懸念されるのは、アメリカが取る報復の形によって世界平和が大きく左右されることです。軍事報復ということになれば、報復合戦の悪循環に陥り第3次世界大戦につき進む可能性があります。仮にテロリストからの再報復で国際条約で禁止されている生物兵器が使われ、生物兵器の報復合戦にでもなれば、第3次世界大戦の終結は人類の滅亡によってもたらされるかもしれません。

アメリカは高ぶった国内感情を押さえるために何らかの報復は必ず行うでしょう。このテロを機にアメリカが軍備増強の道に邁進することは確かです。現在の国民感情をバックに軍事費の拡大が行われ、それに対抗するために中国、インド、パキスタンなども軍備増強を加速させ、核や生物兵器などの拡散が一層進むことが懸念されます。つまり、それらがテロリストの手に渡る可能性が高くなるということであれば、ますます不安定な世の中になるということです。

そういう状況下で日本の役割は、断固としてテロに反対する姿勢を示すと共に、アメリカが暴走しようとするところを食い止めるよう食い下がることです。そのためには、日本を含む反テロリスト同盟を作り、第3次世界大戦につながるようなアメリカの行為にブレーキをかけることが必要です。反テロリスト同盟の中で日本の発言が影響力を持つためには自分たちだけに通用するルール(集団的自衛権)の見なおしと、他の同盟国との緊密な連携が必要です。

集団的自衛権の見なおしにアジア諸国が懸念を示すことは十分に予想されます。このような懸念を日本が今まで解決する努力を怠っていたつけが、世界の非常時に日本が国際的貢献をする足かせとなっています。アジア諸国との関係、日本の集団的自衛権、危機管理等日本が放置してきた問題はあまりにも多い。平時においてこれらの問題に対処できないなら、今こそ、これらの問題に立ち向かう姿勢が必要ではないでしょうか。

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 ■中村美千代  :在米ジャーナリスト

まず、こんなに簡単に米国の中枢がテロにやられてしまうのか、ということに驚きました。世界最高の軍事力と情報力を持つアメリカが,小人数のテロリストによってこれだけ被害を負ってしまうのかと。

米国の報道では「パールハーバーと比較してどうか」という議論が繰り返され、日本人としては辟易しました。NBCのキャスターが「パールハーバーとは比較にならない。パールハーバーの時は敵は明らかだった。今回敵は隠れているし、ハイジャックした旅客機を使って突入したことは、民間人を使って民間人を攻撃した、ということであり、全く新しい形態である」とコメントしたのが救いでした。

CNNで、灰で全身真っ白になりながら、ジャーナリスト顔負けに大変冷静にビデオで現場を映しながら状況を報告し、助けを必要とする人を探している恐らく医師(はっきりしませんが・・)の姿が報道され感動しました。

日本の報道はインターネットで知るしかないので、はっきりしたことはわかりませんが、あるテレビのキャスターが「起こるべくして起こった」と米国の中東政策の失敗が今回のテロを招いたとコメントしたらしいです。(番組を見ていたわけではないので、間違っているかもしれません。)私はそのコメントが本当なら、ピントがずれていると思いました。確かにブッシュ政権の外交政策が原因の一つになっているとは思
いますが、今回のテロは多くの民間人を巻き込んだ誰も予想できない未曾有の出来事であり、「こんなことが起こると私は予想していたよ」とまるで占い師のように無責任にコメントすることは、報道する立場の人間として私はおかしいと思いました。今回のテロに日本人も巻き込まれていることを、このキャスターはどう受け止めているのか、と思います。

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 ■ 渡部恒雄  :CSIS 戦略国際問題研究所 主任研究員

今回の同時多発テロにより、重大な挑戦を受けているのは、アメリカではなく世界です。そして日本のほうが、アメリカやその他の諸国よりもより重大な問題を抱えています。それは、現在の日本人にはこのテロが自分たちに対する重要な挑戦だという自覚がなく、この課題に向合う知性と勇気がないからです。アメリカ人は苦しみながらも、政府やリーダーだけでなく、それぞれの市民が、その事実を重く受け止め、懸命の努力を開始していますし、NATOをはじめ、ヨーロッパ諸国とロシアのG8諸国は、この重大な挑戦を共有する態度をみせています。この意識を共有しないで日本が不誠実な態度を見せれば、日本の信用は地に落ちるでしょうし、そうなったからといってテロリスト達は日本に同情はしないでしょう。むしろ、格好の餌食になります。

日本の自覚の欠損を示す証拠に、新聞などがこの問題を自分たちの問題として、捉えている様子はあまりうかがえず、日本の報道姿勢は地震や天災を扱うことと全く変わっていません。小泉首相は外国人特派員へのスピーチで、「武力行使に関わる国際貢献はできない」と宣言してしまったということです。この一言だけでも、日本への信頼を台無しにしましたし、そもそも、日本には危機意識がないことを暴露しました。これは、当然ながら、テロリスト達に大きな隙をあたえ、今後の日本の安全を脅かすことにもなります。

今回の対アメリカの同時多発テロは、世界の歴史の転換点です。世界の安全保障のあり方が革命的に変わりました。それは、これまでの国家対国家の戦争という(野蛮ではあるが)それなりに暴力をコントロールする秩序が崩壊してしまったことです。国家だけが保有できる軍隊という巨大な暴力装置を行使しなくとも、特定の勢力が、史上最も強い軍事力を持っているはずの国家の市民をたった一度の攻撃で、大量に殺傷できることを実証してしまったからです。しかも、今回のテロリスト達は、犯行声明や政治的目的を明確にしておりません。ですから、現在、アメリカが報復措置をとろうと思っても、どこに報復していいかわからずに、懸命の捜査を続行しているところです。今回アメリカが報復に失敗すれば、第二次世界大戦以降、現在までまがりなりにも、大規模な戦争の勃発を抑止していた、報復を恐れるがゆえに攻撃をためらうという相互確証破壊という秩序がくずれてしまいます。それは、今後の世界の混乱を引き起こすことになります。アメリカの報復の成否は、アメリカ人の感情的な問題だけではなく、世界の秩序維持に大きく影響することなのです。

そして、想像力をたくましくすれば、世界を混乱に陥れるのが目的であれば、今後その目標はアメリカである必要はないでし、人命と人権が尊重されており、破壊が多大な被害と損失をもたらす先進国の民主国家であれば、むしろ、今後テロ対策が強化されるアメリカよりも、そうではない先進国で構わないはずです。それから、そのようなテロの実行を考えるのは、今回のテロリストグループであるとは限りません。今回は、世界のテロ集団に格好の成功例を与え、パンドラの箱を開けてしまったのです。

私たち一人一人は、世界の一員として、恐怖の支配に負けないために、本当に勇気を持って考え行動しなくてはなりません。例えば、ハイジャックされた4機のうちペンシルバニア郊外で墜落した飛行機では、携帯電話でワールドトレードセンターの悲劇を知った人質の乗客らが、犠牲を少なくするために、自らの生命を犠牲にしてもテロリストに抵抗して、目標到達前に墜落させたということです。この飛行機が、もし、ホワイトハウスを狙っていたとすれば、そこからすぐそばに勤務していた私も、こうして無事にものを書いていられるかはわかりません。私はそれらの勇気ある市民に感謝しますし、そこに国境を超えた大きな連帯感を持つことができます。

日本がすぐにでもしなくはならないことがあります。それは、政府と国会がそれぞれ、日本は今後国際テロ活動に対し、自らの闘いを開始するという宣言と、このような非道なテロには無条件に世界の諸国にあらゆる協力を行うことを宣言することです。そして、そのような活動に対しては、現在の憲法9条の解釈を見直し、集団的自衛権を行使するという意志を宣言しなくてはなりません。国境をこえたテロ活動に対処するには、国境をこえた協力が不可避ですし、そうしなければ、アメリカだけではなく世界のどの国も、日本を共に戦う仲間とは認識しないでしょう。もちろん、第二次大戦で被害にあった近隣諸国への配慮を忘れてはいけませんし、9条の戦争放棄の理念を変えるものではないということも強調すべきです。現実的にいえば、集団的自衛権の行使を宣言したからといって、現時点で自衛隊がアメリカと共同作戦をとれるような準備をしているわけではありません。対テロリズムの戦いは、既存の武力行使とは大分その内容が違ってくるはずです。しかし、憲法解釈の制約がなくなれば、日本はより迅速で効果的な協力ができますし、そもそも、日本人の大きな覚悟を世界の味方と敵に向けて、発信することになります。

集団的自衛権反対論者に問います。日本国憲法前文第2項はこう記しています。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

今回の卑劣なテロに対する戦いのどこがこの理念に反するのでしょうか?むしろ、協力しないことは、この理念に反します。今が日本と世界の運命を決める分岐点です。反対も含めて今議論しておかなければ、取り返しのつかないことになります。湾岸戦争から10年間、日本は宿題に答えをださないできました。ここで答えをださなければ、今度こそ、日本は間違いなく世界から孤立するでしょう。

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 ■ 古川勝久  :CFR 外交問題評議会研究員

今回のテロ攻撃に関して日本から以下のような話が聞こえてくる。「今回のテロはアメリカの問題で日本はあまり関係ない。巻きこまれるとかえって危険だ。」「アメリカには同情するけれど、その覇権主義がそもそも問題なのでなはいか。」「アメリカは無謀な軍事作戦を展開しかねないから、あまり協力するべきではない。」…等々。

9月11日の米国へのテロ攻撃で約5千人の死亡が推定されているが、米国ホワイトハウス筋の情報によれば、被害規模から見ると日本はかなり上位に位置すると見こまれている。世界貿易センタービルには31もの数の日本企業の支店事務所が入っており、これだけで20名以上が行方不明になっている。さらに、米国系・外資系企業に勤めていた日本人行方不明者を合計すると日本人死亡者数は100名ぐらいになるのではないかとの推測さえある。日本からニューヨークへ派遣される人々には優秀な人材が多く、知的損失は甚大なはずだ。また、ここを訪れる日本人旅行者も通常多く、もしテロ攻撃のタイミングがもう少し遅れていたら日本人死亡者数はさらに増えていただろう。

今回の事件はアメリカ一国に対するテロ攻撃だけではなく、日本に対する、そして国際社会全体に対する宣戦布告としてみなされるべきであろう。

今回のテロ攻撃の首謀者としてイスラム原理主義派テロリストのオサマ・ビン・ラディンが指名された。彼とその一派は極めて特殊な世界観を抱く、イスラムの中でも異端の少数派だ。(日本では、一部の評論家が、「オサマ・ビン・ラディンがイスラム・コミュニティーまたはパレスチナ人の味方または代表者である」などと触れまわっているが、これは基本認識上の間違いである。)大方のイスラム社会でタブー視されてきた「正義のための自爆テロ」を「聖戦」として積極的に推奨し、アメリカのみならず、国際連合をも「悪魔」とみなす。

イスラム過激派は多様で、必ずしも「反米」がテロ行為の主目的とはみなされ得ないケースも多い。例えばパレスチナ過激派ハマスの場合、 そのテロ攻撃の目標は 「反米」、「反イスラエル」というよりも、むしろ「反資本主義」や「反グローバライゼーション」に近い。パレスチナ過激派が自爆テロのターゲットとしてイスラエル国内で選んだのは、ほとんどの場合、ショッピング・モール、洋風飲食店、ディスコなどである。本来であれば、ユダヤ教のシナゴーグ教会、イスラエル人入植地、またはイスラエル過激派グループ本拠地などの方が、ユダヤ教あるいはイスラエルのシンボルとみなされるはずなのに、これらが攻撃の対象として選定されたことはあまりない。

そして、イスラム原理主義過激派によるテロの対象国はアメリカとイスラエルだけではない。タリバン派の場合、国も文化も宗教も問わず、あらゆる国々に対して極めて広範囲にテロ攻撃を行ってきた。「反米主義」の立場を表明する中国、ロシア、そしてイスラム諸国のサウジアラビア、イラン、パキスタンなどさえもが、過激派によるテロ攻撃に長年悩まされ恐れ続けてきたのである。オサマ・ビン・ラディンのグループが1999年にテロ攻撃の対象として選んだのはアフリカのタンザニアとケニアであった。今年9月はじめに米国政府から日本や韓国に対してテロ攻撃の可能性が警告されたが、日本も決して安心してはいられないのである。

日本はこれまで数多くのテログループによる被害を受けてきたはずだが、まだその教訓が十分に国内で認識されているとは思えない。1973年のオランダ・アムステルダム上空、及び1977年のインド上空での日航機ハイジャック事件;1986年の若王子三井物産支店長、及び1989年の浅尾三井物産ビエンチャン事務所長誘拐事件;1991年のペルー・リマJICA職員殺害事件、1994年のオウム真理教による一連のテロ攻撃・殺害事件、1996年の在ペルー日本大使公邸占拠事件、1999年のキルギス拉致事件、エジプト観光客殺害事件、そして今回の世界貿易センタービルに対するテロ攻撃。このほかにもフィリピン、メキシコ、南米などでの日本人誘拐・殺害事件を含めれば、かなりの数の日本人がテロの被害者となってきた。

今回のテロはアメリカだけの話では決してない。もしアメリカと少しでも関係する国々が全て攻撃の対象とされるのであれば、より多くの日本人や財産が犠牲になるばかりか、日本国内までもがテロ攻撃の対象となりかねない。それがいかに悲惨なことになるか、現在の米国社会が証明している。アメリカではテロ攻撃を受けて以来、いたずら電話で爆弾予告が入るだけで人々は避難、ビルは閉鎖、ビジネスは半日休業という状況が全米各地で続発している。

このような事態の発生を避けてテロを抑止するためにも、日本はあらゆる手段をもって積極的に国際社会に協力しなければならない。ただここで忘れてはならないことだが、日本は「米国に言われたので動く」のではなく、あくまでも自らの国益を守るために率先して行動をとるという姿勢が重要だ。重ねて言うが、これは日本にとって決して他人事ではない。我々はもはや傍観者ではなく立派な当事者だ。

米国のテレビでは今回のテロ攻撃との比較で、日本軍のパールハーバー奇襲攻撃がよく引用されているのはもうご存知であろう。日本人にとっては誠に嫌な話であるが、こちらで事件の初報を聞いた際に、「奇襲攻撃とはこういうことだったのか」としみじみと実感させられた。サンフランシスコ条約締結50周年記念として、今度こそ日本にとって汚名挽回のチャンスである。

 


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