日米のミサイル防衛共同開発―日米同盟、東アジア安保への影響は

 

時事通信社『世界週報』2006年3月21日号掲載

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加藤和世 CSIS戦略国際問題研究所・国際安全保障部・研究員
 

  2006年から日米は、これまで海上配備型上層システム(NTWD)を対象として共同技術研究を実施してきた迎撃ミサイルの共同開発を始める。当該ミサイルはイージスBMD(弾道ミサイル防衛)用の能力向上型ミサイル(SM−3)で、2010年代の脅威への対応も目指す。19988月に北朝鮮がテポドン1号を発射した翌年、その主要4構成品に関する日米共同技術研究が決定された。[i]

  21世紀の新しい世界安全保障環境において、今回の共同開発およびその開発の対象となっているBMDシステムは、日米同盟および東アジア安全保障にどのような影響を与え得るのか。また、共同開発を円滑に進めるために考慮すべき過去の教訓および今後の課題は何か。

  本稿では、上記の点を検討する。今後9年間の開発期間費用総額はおよそ2127億ドルで、日本は10~12億ドルを負担する方向だ。2006年度の政府予算案には開発費用として30億円が計上された。この投資規模に鑑みれば、今回政府が開発段階に踏み切ったのは、配備可能性について十分な期待と自信があるからだろう。しかし、配備段階への移行については、政府が別途判断するということに留意すべきだ。

新たな世界環境におけるミサイル防衛の意義

  冷戦後、ソ連という脅威の消滅と同時に、現実には弾道ミサイルや巡航ミサイルの脅威が増加した。現在25以上の国が弾道ミサイルシステムを保有している。1980年以降、弾道ミサイルは7以上の地域紛争に使用されている。[ii]これらは大量破壊兵器の運搬手段として利用されるだけでない。誤射の可能性もある。ミサイル防衛の大義名分はこれらすべての脅威に対する防衛である。

  日本の共同開発相手である米国が、BMDシステムの配備を国防の優先的課題と位置づけていることは間違いない。ブッシュ政権率いる米国政府は、2001年にABM条約を離脱し、200212月にはBMDシステムの導入を決定した。この決断の背景には、冷戦時代の相互確証破壊(MAD)という概念が米ソ間の核戦争を抑止できても、その他の紛争、特に、通常兵器を用いた紛争は抑止できないという大きな欠陥に対する懸念があった。例えば、1990年のイラクのクウェイト侵攻はMAD状態の下で起きた。もちろん、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン博士等が指摘する通り、同時多発テロ(9.11)以降の世論がテロからの本土防衛を重要視する傾向となったこともこれを後押しした。[iii]

  20062月の「4年間毎の国防計画見直し」(QDR)の中で、米国は冷戦時代の共産主義国家との軍事対立という予測可能な脅威だけでなく、「奇襲と世界的テロ」という新たな脅威への対応の重要性を更に強調している。そして、国土安全保障のためにはミサイル防衛能力の向上が不可欠と述べており、2007年度の国防予算案は、104億ドルをミサイル防衛に計上している。確かに9.11後、国防予算決定の上で競合する優先事項が増えたことは事実だ。しかし、CSISのクラーク・マードック上級アドバイザーが述べるように、米国のミサイル防衛に対する強いコミットメントに変化はないように思われる。[iv]

  日本にとっても、弾道ミサイルの脅威は明らかである。北朝鮮による1993年のノドン発射および1998年のテポドン1号の発射を経験して、2003年には日本政府もBMDシステムの導入を決定した。

日米共同開発の意義

  この環境の中、日米は2005年の日米安全保障協議(2+2)会合において、「国際テロや大量破壊兵器とその運搬手段の拡散」を新たな安全保障環境の共通懸念事項の一つとして掲げ、BMDの二国間協力推進を強調している。果たしてこの二国間協力は、日米同盟および東アジア安全保障にどのような影響を与え得るのだろうか。

  第一に、既に多くの指摘があるとおり今回の共同開発は日米同盟を強化する機会となるだろう。米国は、米国本土に向けられたミサイルを探知するために、日本のセンサーから得られる全情報の共有を望んでいる。また、米国のシューター(発射母体)等が関与する日本防衛のための行動のいかなる部分についても共同の管理が行われることを期待している。このように、情報の共有や共同管理が進めば、日米の相互運用性が強まり、信頼関係も深まるだろう。もっとも、相互運用性が強まれば不可避的に集団的自衛権や武器輸出三原則等の問題が議論されることになるだろう(現にされている)。しかし、米国国防大学国家戦略研究(INSS)のジェームズ・プリシタップ上級研究員は、現在安定している日米同盟の中で、これらの問題は決して克服不可能な問題ではないとの見通しを述べている。[v] 

  第二に、米国とBMDシステムの統合・一体化を進めることが、日本がアジアの隣国を刺激せずにBMDシステム構築に取り組むための重要なポイントであろう。 例えば、日米同盟と米国の「核の傘」によって日本の安全が保障されていると日本が信じていても、中国がその実効性を信用しなかったら意味がないと日本が思い、防衛能力のみならず、日本独自の攻撃能力を保持する結果になるかもしれないと懸念する向きはあろう。そうした中、地域安定のためには日本が日米同盟という枠組みの中でBMDシステムの構築に取り組むことは賢明であるという見方である。

  第三に、仮に中国のミサイル強化が日本や在日米軍をも標的にしている場合、中国としては日米の防衛能力を上回るために必要な軍事力のハードルを上げざるをえないことになる。これは、中国がその軍拡を支えるために必要な経済力のハードルも上げることになる。究極的には、このハードルは米国の核戦力に対抗し得る能力でなくてはならない。中国はその負担に耐えられるだろうか。

  第四に、CSISのマイケル・グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長も述べるように、BMDシステム導入を決定することで、日本はいわゆる「攻勢防御のプレーヤー」となることができる。[vi]つまり、日本が無防備のまま、中国や北朝鮮に対しミサイル攻撃の抑止を主張しても効果はないが、信頼性のある防衛手段を持てば、彼らの戦略的計算を複雑化し、それを楯に交渉できる。例えば、中国が日本の防衛手段を批判する場合、中国の軍事能力の向上が透明性を欠いて行われていることを指摘し、国際秩序を乱すような行動を牽制することも可能となるという議論である。

  また、中国やカナダは、ミサイル防衛が軍拡を推進すると批判する。しかし、岡崎研究所特別研究員の金田英昭氏が言う通り、「多くの国が軍備管理という手段を常に戦略的に利用しているという側面を忘れてはならない」。[vii]旧ソ連は、ABM条約という軍備管理の枠組みがあったにも拘わらずアフガンに侵攻している。共同開発を日米の中国抑止作戦の一環とする人もいるが、一方で中国が不透明な軍事力増強を進めているのもまた現実である。ある米政府関係者は、BMDシステムを重要な「保険」と称している。[viii]近々出版されるCSIS報告書「今後の方途:アジアのミサイル防衛」の主要著者であるジェレミア・ガートラー上級研究員が述べるように、中国はインドのBMD構築に対しては異を唱えていない。[ix]

  日本が現在開発しようとしている迎撃ミサイルは、運動エネルギー(「キネティック・エナジー」)を用いるものであり、「弾頭に何も入っていない」、殺傷力のないミサイルである。[x]日本は政治的側面とは別に、純粋に防衛・軍事的な側面から自国の防衛について自らの国民に対し責任を負う。ミサイル防衛はそのような側面から客観的に考察されなくてはならない。そして、ミサイル防衛が攻撃的能力ではなく日本を攻撃する意図のない者をおびやかすものではないという事実を他国に充分周知してもらう必要がある。ここは、日本外交の手腕が問われるところである。

  日米共同開発の対象であるBMDシステムについては、今後もその技術的実現可能性、費用対効果、政治・安全保障面での影響などが問われるだろう。しかし、技術的実現可能性の有無にかかわらず、実現への意思と能力を顕示することに既に一定の戦略的重要性がある。米国のレーガン大統領が打ち出した戦略防衛構想(SDI)はその技術的実現可能性の不透明さの故、「スター・ウォーズ」計画などと呼ばれ、揶揄された。しかし、SDIの出現により冷戦が終結したと評価する人は多い。[xi]即ち、この宇宙配備型のミサイル防衛構想は、その実現可能性につき種々議論はあったとしても、自由な発想、創意工夫、その結果としての科学・技術の飛躍的前進を可能とする民主主義体制の下においてしか考えられない発想であった。BMD構想は、その経験・教訓を継ぐものであることは間違いない。

過去の教訓と共同開発の課題

  日米共同開発を進める上で現実的留意点が幾つかある。

  まず、今後の共同開発を円滑に進めるために、米側の「スパイラル開発」(注:直線的ではなく、二年毎にそれまでの発想や計画にこだわることなくデザインを柔軟に転換・発展させていく構想)と呼ばれる開発・取得方式に前向きに対応する必要がある。また、レーダー等、ミサイル本体以外のイージスBMDシステムに関する研究開発と歩調をあわせることも重要だ。

  また、カート・キャンベル元国防次官補代理が指摘する通り、1980年代末に日米間で大きなイシューとなったFSXや、1998年の偵察衛星プログラムの事例に鑑み、日米は情報共有と技術協力の複雑さを認識すべきだ。[xii] 

  更に、両国とも、予算の無駄を防ぐべきことは言うまでもない。前出のグリーン博士は、BMDの開発にあたり、出来る限り既存の米国の技術を参考にし、利用すべきだという。ただ、この点については日本の防衛庁関係者も指摘する通り、FSXと今回の共同開発の間には根本的な違いもある。FSXの場合、最終製品の購入者は日本であった。米国は費用上昇のリスクを共有しなかった。しかし、今回の迎撃ミサイルは、米側も最終的に使用・購入するため、米側としても費用のファクターに慎重にならざるをえない。[xiii]

  最後に、日米間では自衛隊と米軍の役割分担や第三国等への技術移転にどう対処すべきかという枠組み上の課題もある。200212月のブッシュ大統領による安全保障に関する指令(NSPD−20)も、米国は、同盟国・友好国を守ることができるBMD能力を持つべきであると述べている。しかし、前出のガートラー氏等は、実際には、米国が同盟国と友好国が、自身で自国のミサイル防衛に関して大きな役割を担うことを期待しているのではないかという。開発段階においてこうした点が明確化されることが必要不可欠であろう。

 

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  ミサイル防衛に日本の防衛力向上に加えて意義を見出すのであれば、米国と連携してBMDシステム構築をするのが、費用対効果やその他の側面からして、日本にとって最も賢明且つ現実的であることに疑いはない。米国と連携してのシステム開発というと殆ど条件反射的に「米国追従」といった政治的スローガンが出て来ることは不可避であろう。しかし、問題の本質は、日米がそれぞれの主体的な責任をどのように果たすかという点にある。日本には日本の領域と国民を守る責任、米国には前方展開兵力(在日米軍等)そして日本を防衛する責任がある。ミサイル防衛はその相互の責任がどうしたら「ワン・プラス・ワン」以上の効果をもって果たされるかを追究するための試みである。この基本を忘れてはならないであろう


[i] 「BMD用能力向上型迎撃ミサイルに関する日米共同開発」防衛庁、20058

[ii] National Air Intelligence Center2006223<http://www.mda.mil./mdalink/bcmt/bcmt.html>

[iii] James Lindsay and Michael O’Hanlon, “Missile Defense After the ABM Treaty,” The Washington Quarterly, (CSIS and MIT, Summer 2002), 167

[iv] 224日筆者とのインタビュー

[v] 213日、筆者との電話インタビュー

[vi] 216日、筆者とのインタビュー

[vii] 金田英昭「弾道ミサイル防衛入門」かや書房、2003年(48−54)

[viii] Even Mederios, 会議報告「弾道ミサイル防衛と北東アジアの安全保障―米国、中国、日本の見解」、(The Stanley Foundation and Center for Nonproliferation Studies, Monterey Institute of International Studies, April 2001, 13

[ix] 211日、筆者とのインタビュー

[x] 224日、MDA関係者、筆者とのインタビュー

[xi] 210日、筆者とのインタビュー

[xii] 131日、日本政府高官、筆者とのインタビュー

[xiii]  127日、筆者とのインタビュー

 

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