2005年3月23日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.315 Extra Edition2
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    ■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.28
   「賛否両論:世銀総裁ウォルフォウィッツ氏」

  □ 村上博美 :ワシントンDC在住

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 ■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.28
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「賛否両論:世銀総裁ウォルフォウィッツ氏」

 ワシントンの中でも、国防副長官ポール・ウォルフォウィッツ氏の世銀総裁任命に
賛否両論が渦巻いている。逆にブッシュ氏に近い人材だからこそ世界銀行にとっては
パイプが太くなる点で有利であり、強い指導力で機能不全に陥った世界銀行を立て直
してくれればなおさらよいという見方と、イラク戦争の中心人物を世界銀行の総裁に
据えるなんて世界各国に対して神経を逆なでする行為だという見方に割れている。ま
た、国連大使へのタカ派のボルトン氏任命とあわせて、アメリカは国際機関を使って
外交政策「中東の民主主義」を実現しようとしている、と受け取られるのではと懸念
する人もいる。それに対し、19日ウォルフォウィッツ氏は「私はアメリカの(外交
政策の)アジェンダを世界銀行に押し付ける気はない。私は(皆の)意見を聞く用意
がある」と発言した。

 スノー財務長官は過去の数週間、世銀総裁人事についてG7やヨーロッパ各国への
根回しを行ったが、報道によれば総裁たる人物の条件や資質についての言及のみで、
個人名は発表当日まで知らされてなかったようだ。ヨーロッパの驚きと世界銀行内部
の慌てようは想像に難くない。

 1967年にジョンソン大統領が当時国防長官だったマックナマラ氏を世銀総裁に
任命したときも、彼のベトナム戦争容認姿勢にものすごい批判があった。ワシントン
ポストのコラムニストC.I.キング氏によれば、世界銀行は懸念されたようなアメ
リカ外交政策の出先機関にはならず、総裁を務めた13年間(1968年から81年)
マックナマラ氏はベトナムへの償いもあってか、精力的に開発援助プロジェクトを推
進し米議会とよく対立したという。彼の評価も分かれるところだが、実際には総裁と
して世界銀行の原点を確立したという見方もあり業績としては悪くない。

 ウォルフォウィッツ氏に対して「貧困や開発問題には興味も知識も持ってない」や
「専門的な経験を積んだ人間が就任すべきだ」という批判があるが、現総裁のウオル
フェンソン氏だって開発の専門家ではない。私の学生時代にウォルフォウィッツ氏が
学長であった時代を思い返してみれば、確かに開発経済に興味があるという風ではな
かったが、人あたりのやわらかさと意思の固いやり手という印象が強い。またインド
ネシア大使の経験もあり、途上国の情況を全く知らないというわけでもない。復興や
開発を使命とする世銀職員の間ではやはり、イラク戦争を推進した中心人物というこ
とに対してアレルギーがあり、「イラク戦争の遂行という業績を称えるのなら、イラ
ク戦争後の復興計画がお粗末なものだったことも彼の業績に加えるべきだ」という手
厳しい批判も多い。

 世界銀行はれっきとした国際機関にもかかわらず、アメリカの一官庁のようにブッ
シュ大統領が総裁を任命宣言するという行為に、内部では批判があがっているようだ。
しかし批判があがろうが職員が反対運動をしようが、アメリカの圧力にはかないっこ
ない。しかも、2000年のIMF総裁任命のときも伝統的にはヨーロッパの影響力
がモノをいうはずなのに、当時のクリントン大統領が拒否したため、人材がすげ替え
られたと言う事実がある。しかも世銀は伝統的にアメリカが総裁を決めてきたアメリ
カの牙城であるから、なおさらだろう。つまり、世銀に対するアメリカの意向は絶対
であり、しかも時のブッシュ政権が世界銀行の非効率な運営に批判的であれば、当然
それが反映されるのである。

 ウォルフォウィッツ氏を世銀総裁に送りこむことで、世界銀行の「政策決定に米国
の意思を明確に反映させる狙いがある」と言われているが、既にアメリカは相当強い
影響力を持っている。例えば、インドが核実験をした際にインド関係の開発プロジェ
クトに待ったをかけたり、テロに関連してアフガニスタンへの開発プロジェクトも拒
否したり、常に世界情勢に対するアメリカの意向が世界銀行の方向を左右してきた。
いまさら総裁を送り込んで更に意向に従わせるというより、ブッシュ大統領が言うよ
うに「氏は大きな組織を統率する手腕に優れている」ことで、指導力や実行力に重点
をおき世銀の抜本的改革を視野に入れた任命という意味が大きい。

 世界銀行という巨大官僚体制が非効率で開発援助の実効性も十分に上げられない、
という批判は以前からある。99年には世銀は機能不全に陥っているとし、世銀の大
幅改革を勧告するレポートも出版されている。貧しい国の開発援助をするのにファー
ストクラスで出張ということはさすがになくなったが、体質的にはそう大きく変わっ
ているわけではない。それに対して改革に意欲的で指導力ある総裁が就任することで、
意識改革が進み各国が拠出している資金の運用が効率的になるのであれば、それはそ
れでプラスなのではないだろうか。

 今回の任命劇で、イラク戦争にしろ、復興開発にしろアメリカの影響力の大きさを
改めて意識させられた。アメリカとしては早期に総裁承認を終わらせたいところだ。
今までは全会一致という形で世銀理事会で承認されてきており、今回も基本的にその
スタンスである。24人で構成する理事会の投票権の分布でいえば、現在アメリカが
最大で16%、日本8%、ドイツ4.5%、フランス4.3%などヨーロッパ全体を
まとめれば30%になると言われている。しかしその理事会で反対票を投じるのには
勇気がいる。例えば日本は言うに及ばず、援助を期待する発展途上国は立場上アメリ
カに反対はできず、ヨーロッパですらやっとイラク戦争での対立の傷が癒えてきた状
態で、反対票を投じる政治的コストを考えずにはいられないだろう。

 余談だが、ウォルフォウィッツ氏は世界銀行の中東・北アフリカ部門で働いている
女性と2年に渡り交際中と報道されており、お相手は、チュニジア生まれでサウジア
ラビア育ちのオックスフォード大学出身のイギリス人女性で、ウォルフォウィッツ氏
の「中東に民主主義を」という思想に共感しているという。世界銀行では伴侶または
パートナーが直属の上下関係でなければ、特別問題にはならないとか。

 以前、ウオルフェンソン総裁が会見の最中に聴衆からパイを顔に投げつけられたこ
とがあったが、「今度はパイじゃすまない。もっと大変なものが投げ込まれるかも」
と世界銀行がテロのターゲットになることを懸念する友人や「もともと国際機関なん
ていらないと公言するブッシュ政権の手によって、とうとう世界銀行も閉鎖されるの
では」という職員もいる。しかし、世界銀行が存続するするためにこそ、ビジョンの
再確立と組織の抜本的改革が必要とされているなら、指導力があるというウォルフォ
ウィッツ氏の力量拝見、というのは楽観的すぎるだろうか。。

参考:Reuters, Washington Post, NY Times, National Public Radio


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