2005年9月2日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.338 Extra Edition3
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     ■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.32
    「シンディ・シーハン事件」

  □ 村上博美 :ワシントンDC在住

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 ■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.32
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「シンディ・シーハン事件」

 毎日のようにその動向がTVで報道されるのは、シンディ・シーハン率いる反戦
キャラバンだ。昨年息子をイラクで亡くした彼女は、当初「大統領に(なぜ息子がイ
ラクで死ななければならなかったか)説明してほしい」とブッシュ大統領が休暇を楽
しんでいるテキサス州クロフォードの私邸に近い路上で、車中で寝泊りしながら直接
面会を要望していたが、大統領が面会を拒否したことからメディアが注目。シーハン
氏に対抗して戦争賛成派のグループも続々と集結し、普段は700人ほどの小さな村
の人口が、大統領の5週間の休暇がはじまった8月の初旬から2000人ほど増え、
現在は大統領の私邸の目と鼻の先で戦争賛成派と反対派がつばぜり合いを行っている。
24日頃から勢いがついたこのシーハンの動きは、ブッシュ大統領のイラク政策を足
元から揺るがす反戦の動きに拡大する可能性もある。大統領選以降の国内のイデオロ
ギー分裂が、ひとつこういう形で噴出したようだ。

 亡くなった24歳の息子の名をとって“キャンプ・ケイシー”と名づけたシーハン
率いる反戦キャラバンは、9月1日からバスで全米を巡るツアーに出発し、9月24
日には終着点ワシントンDCにて反戦マーチを行い、シーハンは大統領が面会するま
で居座ると言っている。シーハン陣営は反戦キャンペーンに手ごたえを感じており、
いわゆるクレージーな左派だけでなく中道のアメリカ人が賛同を示し始めているとい
う。保守派がこれまで使ってきた「戦争に反対するのは、いわゆる極端なリベラルか
非国民」という説明では通用しなくなったようだ。コネチカット州から参加している
21歳の女子学生は、「(大統領次席補佐官の)カール・ローブは主流派のアメリカ
人ならば戦争に賛成すべきだとうまく国民をまるめこんでいる。私は主流派アメリカ
人だけど、極端な思想の持ち主でなくても戦争に反対だということを言いたくて来た
の」と言い、地元テキサス州在住の87歳の男性は「たった一人の女性」が立ち上
がってこれだけ何かができることに感動し、80マイルを車で飛ばして駆けつけたと
いう。

 一方、最近の世論調査(*)によれば、イラク戦争の支持・不支持の割合はここ2ヶ
月不変であり、特に反戦運動が高まっているデータは見受けられないという。ブッ
シュ政権の支持率は過去最低の45%となり、今年1月より7ポイント低下し、不支
持は53%にも上っている。しかし、ブッシュ政権の支持率が下がったのは、イラク
戦争への不支持が増えたわけではなく、ガソリンの値段の高騰が主要因のようだ。た
だ、シーハン氏でなくても「もう十分よ。なんで我々アメリカ人がイラクにいなきゃ
いけないのか、(ブッシュ大統領は)いったいどれだけ他の仕事をしてるの?」と不
満がでていることも事実だ。実際、シーハン氏の行動については53%が賛同すると
答え、賛同しないの43%を上回っている。

 一大ムーブメントを起こしているのは、シーハン氏のメッセージが単純で直接的な
点だろう。例えば、「ブッシュ大統領はうそつき。イラク戦争が必要だとうそをつい
た。早く兵隊たちを故郷に返して」や、「世界の最大のテロリストはジョージ・ブッ
シュ。国中を回って母親達に伝えるの“この国のために(息子や娘を)死なせること
はないわ”」、といった具合である。今週から全米のTV局で大統領へ向けたメッセ
ージとして彼女のコマーシャルが流れる予定だ。一方、彼女の発言には若干の事実誤
認や過激な言動も多いと指摘もある。例えば「アメリカがイラクから撤退し、イスラ
エルがパレスチナから撤退すれば、テロはなくなる」や、「イスラエルを利するネオ
コンの目的のために息子は死んだのよ」などだ。一方、戦争賛成派もだまってはいな
い。同じく息子をイラクで亡くしたある父親は「ブッシュ大統領と亡くなったヒーロ
ー達の尊厳を取り戻すため」にデモに参加したり、ファルージャで亡くなった息子の
話に目を潤ませた男性は、「こちら側(戦争賛成派)の方が正しい。私は、何が正し
いかを示すために立ち上がった」という。

 双方の陣営は全米ツアーやTVコマーシャルを打ちだしており、潤沢な資金がそれ
ぞれ集まっているようだ。シーハン率いるキャラバンは、マイケル・ムーア氏からも
資金が出ているとも噂されている。その他リベラル系のコンサルタントグループが、
キャンペーンの広告をプロデュースしたり、ベトナム反戦活動家でフォーク・シンガ
ーのジョーン・ベーツが自ら進んで広告塔となったり、数百人単位のボランティアが
キャンプ・ケーシーの元に集まっている。一方、賛成派キャンペーンの「You don't
speak for us, Cindy 」(「シンディ、あなたは私たちの代表じゃない」)ツアーも
続々と参加者が増え、Move Forward Americaという保守系団体が資金面で後押しして
いる。

 ベトナム戦争時の反戦運動の高まりは、徴兵制度が大きな要因であったが、現在の
イラク戦争はあくまでも個人の任意の意志による軍隊参加であり、犠牲者の数が増え
ているとはいえ、大きな反戦運動が盛り上がるには地域格差が大きい。ただ、最近の
オハイオ州の海兵隊15人が死亡といったニュースの反応を見ると、大都市とそれ以
外ではイラク戦争に対する受け止め方に温度差があるようだ。昨年の大統領選から引
き続き現在まで、ブッシュ大統領は「徴兵制度の復活はない」と断言している。しか
し現在、現役の軍人は陸軍・海軍・空軍・海兵隊全てを含めても140万人であり、
1986年の220万人より3分の1減っている。ベトナム戦争時には350万人、
朝鮮戦争時には360万人、第二次世界大戦中の1200万人と比べれば格段に少な
い。イラクへすぐ派遣されるため、軍隊の人材確保も難しく、募集人数を大きく下
回っているという話も聞く。

 ブッシュ大統領の支持率が下降気味なのは、ここ1年で倍以上に値上がりしたガソ
リンの高騰に対して事前に手を打つべきだったとし、大統領は仕事を怠ったという姿
勢への批判が大きい。実際には8月8日に包括エネルギー法案を通過させたのだが、
石油精製施設の増強や油田・ガス田の開発は中長期の対策であり、ガソリンの値段に
すぐ反映されるわけではない。一方ハリケーン・カトリーナの犠牲者が数千人規模に
拡大する可能性もあると言われている現在、本土を直撃するのを知りながら、ハリケ
ーンが過ぎ去るまで休暇を切り上げなかったブッシュ大統領に対する批判も、この先
厳しくなりそうだ。

*世論調査:Washington Post-ABC August 25-28
参考:Washington Post, Los Angeles Times 他。


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