|
2005年12月18日発行
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media] No.353 Extra Edition3
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
http://ryumurakami.jmm.co.jp/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼INDEX▼
■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.36
「ブッシュ政権のスピン」
□ 村上博美 :ワシントンDC在住
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.36
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ブッシュ政権のスピン」
雪化粧したワシントンも連日零下である。地元民の目下の話題はカブ・パンダ。ワ
シントン動物園では夏に生まれたパンダの赤ちゃん(タイシャン:Peaceful Mountain)
が12月8日からお目見え。成長の様子を Webで公開してきたので、皆是非カブを一
目みたいと人気が集まっている。インターネット上で用意された整理券はすぐなく
なってしまい、ワシントン子は来年1月2日以降の整理券配布再開を心待ちにしてい
る。混迷の続く政治とは裏腹に久々にうれしい話題だ。
***
12月15日のイラク国民議会選挙に向け、ブッシュ政権幹部がリレーで「スピン」
をかけている。ここで「スピン」とは良い点を強調することによって、ブッシュ政権
の優位性をメディアや国民に印象付けようとする行為である。ハリケーン・カトリー
ナの対策不備やイラク戦争の戦略欠如によって急落した支持率を押し上げようとする
ための作戦だ。つまり「我々ブッシュ政権のやっていることは如何に正しいか」を入
れ替わり立ち代りパブリック・スピーチで述べることである。いくらワシントンでも
政府高官が短期間のうちにこれだけ多くの公的なスピーチを行うことはめずらしい。
政府高官が講演となればメディアもカバーするため、米国民に広くPRするには格好
の機会となる。
例えば12月5日、当校でラムズフェルド国防長官の「イラクの将来」と題した講
演では「独裁政権下で虐殺が行われていた昔と比べればイラクは大きく変わった。政
治制度が変わり株式市場もでき、学校も整備されつつある。これらが国の安定に重要
な役割を果たす」と述べた。また最近の撤退論の盛り上がりに対し「撤退はもっと多
くのテロを生む」とし「出口政策を探るよりも、イラクでの成功の戦略を練ることに
専念すべきだ」とくぎをさした。アメリカはテロとの戦いを放棄することはない、と
し「もしこれを怠れば孫達の代まで禍根を残す」と言明。米軍兵士がイラク人をライ
オンで襲わせたという“間違った”ニュースが世界を駆け巡ったことを例にあげ、イ
ラクの情勢の断片的報道や誤情報を伝えるメディアは反省すべきだと批判も忘れな
かった。
DC市内のシンクタンクで12月9日ライス国務長官は「イラクと中東の民主主義」
について講演。アメリカがどれだけ国際社会から協力を得ているか事例を挙げて紹介。
英国の次に軍隊派遣の数が多い韓国や、実に60年ぶりという日本の海外派兵による
貢献を褒め称えた。一般のアメリカ人はこれを聞けば、日本は米軍と肩を並べてイラ
クの治安を治めていると思うだろう。日本に対する発言で目立つのは「イラクも日本
のように“アメリカの力”によって民主主義になるのだ」というもの。戦前の日本の
民主主義の経験を無視した発言に不満を感じる在米日本人は多いが、前回の大統領選
挙から引き続きブッシュ政権のとるスタンスだ。ライス長官は「(民主主義を導く)
アメリカの指導力がなければ、アメリカのみならず国際社会が苦しむ」と締めくくっ
た。
ブッシュ大統領自身も「スピン」遊説に余念がない。11月30日にはメリーラン
ド州アナポリスの海軍士官学校で「イラクでの勝利のための国家戦略」について講演、
12月7日外交評議会でも講演、12月12日フィラデルフィアにて「イラクと対テ
ロ戦争の勝利」について講演。そこで「完璧な勝利以外は我々は受け入れない」とし
「イラク周辺地域に民主主義が広がれば、アメリカはもっと安全になる」と発言。ワ
シントンに戻りイラク国民議会選挙前日の14日、市内のシンクタンクで「イラク国
民議会選挙と対テロ戦争」について講演。袖にはライス国務長官、ラムズフェルド国
防長官、チャートフ国家安全保障長官を従えオールメンバーで望んだ。そこでブッ
シュ大統領は「イラク開戦の責任は私にあり、情報部門にも問題があった」と認めた
上で、「サダム・フセインを引き摺り下ろす決断を下した私の判断は正しかった」、
「サダムが権力の座にいないことで、アメリカや世界はより安全になった」と強調。
イラクが自由で民主主義になれば平和が実現されるだろうと述べ、例によって日本の
ケースを披露。「トルーマン大統領は、アジアに平和と繁栄を実現させるには日本に
自由と民主主義の“種をまく”必要があると信じた。今日(のイラク)のように当時
日本に民主主義は早すぎるという議論もあったが、トルーマン大統領は自由主義こそ
が敵を味方へ変えると信じ断行した。その結果、今日日本は世界のなかでも有数の自
由主義国であり最も繁栄している国の一つだ。更にアメリカの最も近い同盟国の一つ
として、世界の平和を実現するために一緒に努力している。アメリカが断固たる意思
をもってイラクや中東に自由を実現させれば(日本と)同じようなことが起こる」と。
一方、経済政策面についてもぬかりなく成果をPR。12月5日ブッシュ大統領は
スノー財務長官とグティエレス商務長官を引き連れ、ノース・カロライナ州のデーレ
・日立工場を訪れた。そこで如何に減税が雇用増に寄与しているか、11月だけで雇
用21万5千増を記録し失業率は5%に下がったことを挙げ、米国経済の強さを強調。
昨年に引き続き外国資本が入った工場への視察は、中国など海外への雇用移転を容易
にさせているというブッシュ政権への批判に対処したもので、当工場は4年前日本及
びメキシコからノースカロライナに生産拠点を移し3倍の雇用を提供していると「こ
れこそ“市場開放”の成功例だ」と賞賛。安全保障チームと同様、経済チームもスノ
ー財務長官、グティエレス商務長官、チャオ労働長官が14日に3人そろっての最後
のプッシュ「スピン」を行った。グティエレス商務長官は「ブッシュ大統領の経済成
長・雇用増政策のおかげで米国経済は強固であり景気もいい、そして何よりも40年
ぶりに高い生産性の伸びを示している」と政権の経済政策あを絶賛した。
こういった集中スピンの結果、ブッシュ政権の支持率が上がればこの作戦は一応成
功となる。しかし支持率の上昇はそれほど顕著ではない。例えば最近のUSA TODAY/
CNN/Gallupの調査では、ニクソン大統領を除いて2期目としては戦後最悪の支持率3
7%(11月半ば)が42%へ上昇したが、主に経済指標の好転が理由だと分析して
いる。やはり冬に向けてガソリン・灯油の値段が下がったことが大きい。一方「撤退
も含めて具体的にイラク政策をどうするのか説明してない」と国民はまだブッシュ政
権のイラク政策に懐疑的だ。イラク国民議会選挙の結果がでても劇的にイラク情勢が
安定するとは考えにくい。この後任期を3年も残すブッシュ政権の課題はまだこれか
らだ。
*スピーチは以下を参照:C-SPAN( "http://www.cspan.org"
www.cspan.org),
Heritage Foundation ( "http://www.heritage.org"
www.heritage.org),
SAIS( "http://www.sais-jhu.edu"
www.sais-jhu.edu),
White House( "http://www.whitehouse.gov"
www.whitehouse.gov) 他。
|