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経済界 ワシントン発ポトマック河畔に吹く風 北朝鮮核の核開発疑惑で飛び出した「日本核武装論」の戦略的思考とは (2003年2月25日号掲載) 戦略国際問題研究所日本部主任研究員 渡部恒雄
北朝鮮の核問題は日米韓に難しい状況をもたらしたが、日本核武装論という思わぬ副産物も作り出した。 1月23日に自民党の亀井静香前自民党政調会長が、ワシントンを訪れ、戦略国際問題研究所で講演をした。講演の内容は内政から外交まで多岐に渡ったが、質疑応答の中で、ワシントンで関心を呼んでいる日本核武装論に意見を求められた。広島県出身の亀井氏は家族が被爆した体験に触れ、「核武装を考えている日本人は絶無と思う。日本は核を持つべきではないし、世界のどの国も今後使用することがあってはならない。広島と長崎を二度とくりかえすべきではない」という返答をした。 日本に住んでいる方からすれば、亀井氏の発言は日本の国民感情とコンセンサスの反映であり、「何をいまさら」という感じかもしれない。しかし、現在の国際政治の文脈では、日本の核武装論は十分考慮あるいは懸念される旬の話題であり、日本の政治家による非核政策の再確認は、日本の安全保障政策上、大変意味のあることであった。 例えば、亀井氏が講演した当日のワシントンポスト紙には、北朝鮮問題に関連して、以前に問題発言で防衛政務次官を辞任した自由党の西村慎吾衆議院議員が、北朝鮮の核に対抗して「日本は非核三原則を放棄すべき」と主張するインタビュー記事が掲載されていた。 そもそも、日本核武装論は、今年はじめの1月5日に保守派のコラムニスト、チャールズ・クラウトハマーが、北朝鮮問題の解決策として、ワシントンポストに「ジャパン・カード」という見出しで、掲載したあたりから頻繁に議論されるようになった。クラウトハマーによれば、北朝鮮の核開発を断念させるためには、北朝鮮に対して最も影響力がありながら、腰が引けている中国を動かさなくてはならない。しかし、アメリカにはほとんど持ち札がない。そこで、中国を動かす最後の切り札として、「ジャパン・カード」を使うしかない。それは、アメリカが中国に対し、北朝鮮の核開発を阻止するために本気で動かなければ、日本に対して核武装を薦め、さらにその間のつなぎとして、アメリカの核ミサイルを日本に配備する、と警告することだ。我々の悪夢が北朝鮮の核なら、中国の悪夢は、日本の核だからだ。 さらに、同1月5日のCBSテレビの報道番組フェイス・ザ・ネイションに出演したマケイン上院議員も、「北朝鮮の核開発を阻止するためには、中国の協力が必要で、ひとつの策として、日本の核兵器開発に対するアメリカの異議を差し挟まないという選択肢がある。なぜなら、日本こそが、北朝鮮の核兵器から直接の脅威を受けているからだ」と語っている。ブッシュ現大統領と共和党の予備選を争ったこの大物上院議員の発言は、ワシントンの政策コミュニティーに大きな影響を与えた。 この機会に日本としては、核武装論に関して、不用意な発言で周辺国や同盟国を警戒させないよう、戦略的に先を読み、外からの目を納得させるような政策を、準備しておかなくてはならない。国民感情を考えると、これまでの日本の非核政策へのコンセンサスは、短期的には大きく揺らぐものではないだろう。しかし外部の目は、現在の日本の核アレルギーが決して永続するものとは見ていないのも事実である。 今後の展開次第では、北朝鮮は日本を脅かすに十分な核兵器の開発を完了する可能性はかなりある。勿論、そうなる前に全力を上げて、北朝鮮の核保有を阻止すべきである。しかし、いざ戦争か核開発容認か、という状況の際に、決定的な軍事力を持つアメリカが、在韓米軍と韓国軍および韓国市民の多大な犠牲をもいとわずに、北朝鮮の核保有阻止のために動くのかどうかは不確定要素である。 しかも韓国はともかく、日本の世論も、アメリカの武力行使を容認しないかもしれない。そうなった際に、ノドンという日本を射程に入れたミサイルを保有する北朝鮮の核兵器に対し、アメリカの核の傘だけで、日本に不安はないのか。相互確証破壊という核ミサイルを向け合い、お互いの攻撃を抑止するという方法で、これまで、核保有国同士の核使用は回避されてきた。しかし、アメリカは北朝鮮が日本に核ミサイルを撃った際に、すかさず反撃をするということを、北朝鮮側に確証させることができるのか。 亀井氏は、広島と長崎で核はごめんだといった。しかし、日本が自ら核を保有することで、北朝鮮の核の使用を抑止できると国民が考えた場合、核アレルギーだけで本当に非核政策を継続できるのか。 安易な答えはない。しかし、現時点でいえることは、日本の核武装は国内政治上、簡単に支持が得られない難しい選択肢である事だ。そうであれば、一部の勇ましい発言が一人歩きして周辺国の不安だけを煽る割には、国民のコンセンサスが得られず核武装にも踏み切れない、という百害あって一利もない状況が作り出される可能性も高い。 北朝鮮の核危機が山場を迎える今後は、日本のリーダーは、日本の核武装に関して、不用意な発言に十分に気をつけなくてはならない。それと同時に頭の中では、むしろ最悪の状況を含め、タブーを作らず、あらゆる選択肢を事前に考慮しておく戦略思考も必要だ。日本の頭脳と外交手腕がまさに試されている。 © 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |