「これで米中関係が読める!対中「四大勢力」の実像」

東洋経済新報社『東洋経済』2006128日号掲載

 

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渡部恒雄三井物産戦略研究所主任研究員

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  日中関係の混迷が続く一方、米中関係は一見、良好だ。ゼーリック国務副長官は昨年9月の米国内での講演で、中国に国際システムにおける「Responsible Stakeholder(責任ある利害関係者)」であることを求める演説を行った。これは中国の大国意識をくすぐり、中国では好意的に受け止められた。

  11月に訪中したブッシュ大統領も同じ文言をスピーチに使った。人権、知財権、市場開放、人民元の切り上げなどに注文はつけたが、具体的な政策圧力を控え、中国の面子に配慮したのだ。こうした姿勢が、現在のブッシュ政権の対中基本スタンスだろう。

  しかし、ブッシュ政権の足元にも「中国脅威論」は存在する。1972年のニクソン大統領の電撃的訪中以来、米国の対中姿勢は短期間に極端な振れを繰り返し、日本はその都度翻弄されてきた。現在も米国内の対中姿勢には様々な勢力がある。それらがどう政権に影響するか、を頭に入れておく必要がある。

 A 対中安保封じ込め派

  筆者は、米国内には中国に対して異なる認識と利害を持つ四つのグループが存在し、それらの相互関係が政策に影響を与えていると考える(図参照)。まず、Aグループは、中国を将来の米国覇権への挑戦者としてとらえ、封じ込めを志向するタカ派。チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官などが代表だ。

  国防総省は、軍人よりもシビリアン(背広組)が中国に厳しい。彼らには中国の共産党独裁という政治体制に対する本質的な警戒感と拒否感が根底にあるのだろう。軍人は決して中国を楽観視しているわけではないが、民主化イデオロギーは弱く、より現実的に対応する傾向がある。ただし、潜在的脅威の存在が、作戦、予算、権限の源泉となる国防総省にとって、背広・制服を問わず、共産党独裁を維持し軍拡を続ける中国は、同省の組織維持に好都合な存在である。

  国防総省の対中観がうかがえるのが、20057月に発表された議会への年次報告だ。ここで同省は「長期的には中国の軍事力は、周辺国への脅威となる」と報告したが、発表前に米中関係の悪化を望まないホワイトハウスの異例の介入があり、厳しい言葉遣いが薄められたといわれている。オリジナルの文言はより辛辣だったのだろう。

  封じ込め派のもう一つの舞台は、議会が設置した中国経済安保調査委員会だ。ここは後述する議会内の封じ込め派()と経済リベラル・人権派()の提携の場でもある。主役はブッシュ政権発足時に注目を浴びた対中強硬派「ブルーチーム」(中国の赤軍に敵対するのでこう呼ばれたらしい)に連なる保守派。この委員会の05年の年次報告には、中国に米国の軍事技術を盗まれ、米国の経済と軍事の優位性が奪われることを懸念する内容が目立つ。

  議会の封じ込め派は、99年に中国がスパイを使い米国の核兵器の技術を盗んでいるコックス(下院議員)レポートを発表したことがあった。この時の中心人物が昨年末に機密漏洩疑惑で辞任に追い込まれたルイス・リビー副大統領首席補佐官であり、ブッシュ政権、特にチェイニー副大統領との関係は深い。

 B 対中関与派

  Bグループは、決して親中派ではないが、中国との対決は不可避ではなく、むしろ積極的に関与することで、米国との衝突回避を誘導できると考える現実派だ。国務省を中心に政府内や政策コミュニティでは多数派。ブッシュ大統領も、米中国交回復前の実質的な中国大使(駐在連絡事務所長)を経験した父親の影響もあり、現在は同グループに最も影響されている。実際に、父ブッシュは昨年11月に訪中する息子に先がけて中国入りし、「歴史は米中両国が敵になるのではなく、友になるべきことを物語っている」というスピーチで露払いを行っているほどだ。

  関与派は層が厚く、様々な顔を持つが、国際関係論的には二つの異なる考え方のグループがある。一つは日本と中国をうまく競わせてバランスをとろうとするキッシンジャー元国務長官やブレジンスキー元大統領補佐官らの伝統的な勢力均衡派だ。ブレジンスキーは特に明確で、近著『孤独な帝国アメリカ』(朝日新聞社)では、現在の北東アジア情勢を第一次大戦直前の欧州モデルに当てはめ、米国による日中の慎重なバランス維持政策を提言している。

  一方、ブッシュ政権では唯一の超大国である米国と同盟国のイニシアティブを重視する新世代が台頭。ライス国務長官がこのグループ。同時に東アジアでは、アーミテージ元国務副長官を中心とする対日同盟重視派が力を持つようになっている。アーミテージは中国を脅威と決め付けてはいないが、中国主導の東アジア共同体形成に警戒感を隠さず、日米の緊密な協力を説く。

C 対中経済推進派

  このグループは、中国との経済関係で大きな利益を得ている産業界が主体。共和党を資金的に支えている組織、団体も多く、政権や議会への影響力は強い。ウォール街の金融界や米国電子工業会(EIA)などだ。全米製造者業会(NAM)も、人民元切り下げ問題では厳しい注文を出しているが、全体では米中関係を良好にしたいと考えている。昨年7月、中国への軍事関連の電子技術移転を厳しく制限する法案が議会で審議された際も、EIAのマカーディー会長は「われわれは米国の安保と貿易に重大な影響を及ぼす間違った法案を廃案にし、中国との関係を促進すべきだ」と明確に反対した。

  ビジネス寄りの姿勢が強いブッシュ政権や議会共和党にとって、経済の"勝ち組"である同グループは無視できない。ただし、彼らは政治的圧力を懸念して慎重に発言するため、その影響力は静かなことが特徴だ。

D 経済リベラル・人権派

  Dグループは、中国製品の流入で追い込まれる繊維業界や、中国の安い労働力に職を奪われることを恐れる中小企業、労働組合、それらの意見を代表する議員が中心だ。彼らは中国の競争力、知財権の侵害、模造、為替操作を懸念している。同時に中国の人権侵害に批判的なリベラル派も多い。

  昨年、中国から米国への繊維製品の輸入の急増が議会の反発を呼び、国内市場を保護するため、人民元の切り上げを行わない場合には、中国からの輸入品に27.5%の制裁関税をかけるというシューマー・グラハム法が議会で可決した。シューマー上院議員(民主党)は「商務省の報告(04年の対中貿易赤字が前年比で30%増加したこと)が示すものは、中国が国際経済のルールで競争しないため、米国の公正な競争力を損なっていることだ」と主張する。

  米中繊維摩擦は0511月に、米中が34品目を3年間の数量制限の対象とすることで合意。7月には中国が人民元を2.1%切り上げたこともあり、いったん沈静化している。だが、シューマー上院議員は今年に入ってからも引き続きシューマー・グラハム法による制裁をちらつかせ、中国に対米貿易赤字削減の努力を求めている。依然、火種はくすぶっている。

  以上、四つのグループのうち、米中摩擦の主役は、保守の封じ込め派(A)と経済リベラル・人権派(D)である。両者は国内政策では対立することが多いが、対中では議会を中心に連携して強硬派を形成している。昨年、中国海洋石油による石油大手のユノカル社の買収をめぐって、米国の経済安保ナショナリズムが刺激され、8月には議会の立法により買収は実質的に阻止された。これは()()連合の()に対する勝利だった。

  しかし全体でいえば、対中関与派()のホワイトハウスが、封じ込め派()の圧力を受けながらも、対中経済推進派()の意見を考慮し、現実的な観点から対中政策を極端に振れさせないよう苦心してきたのが大勢である。

  ブッシュ政権は0611月に中間選挙を控え、米国民の最大の懸念であるイラク状況への対処を強いられる。中国との経済的利益やその北朝鮮や中央アジアへの影響力を考え、全面的な対決は回避し、現実的な対中政策を継続していく可能性が高い。ただし、今後ブッシュ政権のレイムダック化が進み、相対的に議会の力が強まっていくようだと、政権の思惑を超え、議会発の中国への圧力に政府も同調せざるを得なくなるというシナリオも十分ありうる。

 

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