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「対イラク反乱軍戦争への提言」 『政策空間』2006年3月号掲載
3年目に入るイラク戦争が停滞している理由のひとつに、テロを主な攻撃手段として用いるゲリラ反乱軍の鎮圧が滞っている点がある。私はそもそも「イラク復興支援」という名の元で行われた日本のイラク派兵に反対で、自衛隊は即刻全面撤退するべきだと考えている(参照論文:政策空間vol.23「テロリズムと日本の安全保障政策」)。派兵は日本の直面する脅威に対してのみ実行するべきで、現地でテロを行うゲリラは日本の敵にあらず、対日の敵を不必要に作り出し日本の安全を損なう可能性がある。3月末からの撤収作戦を調整しているが、対反乱軍戦略の一環として自衛隊の対応を考える場合、二点の結論に達する。 1.日本のイラク対策・対反乱軍戦略は当地で軍事的武力鎮圧を図るのではなく政治的に解決するべきである。 イラク政情の核となるのはスンニ少数派と占領軍・シーア多数派の間で行われる「反乱軍戦争(insurgency)」である。一般的に反乱軍戦争は片方が物質的に劣勢な非対称戦争であり、通常兵器で立ち向かう事が困難なため、異例の方法を用いて相手の弱点を突く戦術を用いる。更に地元の文民の支持を母体に食料、住居、武器、そして情報を確保し、テロ、ゲリラ戦術等を用いて占領軍・シーア派を攻撃するのである。従って対反乱軍戦略(counterinsurgency)の中心的な要素は、ゲリラを文民から孤立させる事である。 主要文献によると、対反乱軍戦略は「地域化」「分離」「武力鎮圧」「WHAM」という大まかに4つの理論に分けられる。まず「地域化」とは、現地の政府に責任を委託しつつ自軍を撤退させる事により紛争を最小限化する戦略である。つまり出口戦略としてイラク政府に主権を委譲し政治経済体制を構築するのである。次の「分離」は、ベトナム戦争中見られたように文民を地理的に隔離し反乱軍の支持母体の影響を極力防ぐ戦略で、第三の「武力鎮圧」は文字通り武力を用いて反乱軍を鎮圧する戦略である。これは「政策空間 Vol. 6」で佐竹茂氏が述べている「軍事のない政治」化しつつあるイラクへの武力鎮圧を指す(参照論文)。そして最後の「WHAM」は政治経済的援助を通して文民の精神的理解を得、彼らを味方に付ける事により反乱軍側を孤立させる戦略である(従ってWHAMはWinning Hearts And Mindsを意味する)。再び佐竹氏の言葉を拝借すれば「政治のない軍隊」状態に友好的な政治力を注入する事になる。 対反乱軍戦争の成功例を挙げると、第二次ボーア戦争(1899−1902年)、マラヤ独立戦争(1948−62年)、アルジェリア独立戦争(1954−62年)等がある。これらの例は歴史的背景(植民地対宗主国の関係等)こそイラクと異なるが、対反乱軍戦略の観点でイラクと比較検証してみると以下のような考察ができる。 まず、主権の移行は決定力に欠ける。「地域化」の例である70年代のベトナム化政策は実質的なゲリラ政策ではなく、結果としてジョンソン政権の政治敗北を導いた、むしろ撤退政策であった。また、現行のチェチェン紛争で露軍はその縮小化を図るも、一方でテロ・ゲリラ組織の地理的拡大化に伴う「コーカサス化」とでも呼ぼうかチェチェンを含むカフカス全体の「地方化」が進んでいる。拡大しつつある紛争を縮小化する能力は露軍にはない。 また、分離戦略は単なる時間稼ぎに過ぎず決定力に欠け、独立した政策としてはほぼ無効である。3つ目の軍事戦略の行使は歴史的に見て有効であり、実際に武力鎮圧はボーア戦争や90年代にサダム・フセインのクルド人等国内不安定要素の排除の目的で用いられ成功している。最後に、WHAMは、マラヤ紛争時の英陸軍テンプラー将軍が打ち立てた政策で、ベトナム戦争では米陸軍のクレピネビッチ退役大佐が、そして現行のイラク戦争ではシカゴ大のミアシャイマー教授等が提言している。私もこの政策は長期的に見て必要不可欠だと思う。すなわち武力と政治力の組み合わせが妥当な線であろう。 しかし対反乱軍戦争とは政治的に難しい戦いである。60年代のアルジェリアでは仏軍は武力鎮圧に成功するものの、アルジェリアの独立という政治敗北を見る。一方で、マラヤ紛争でイギリスはWHAMの勝利と引き換えにマレーシア独立、つまり英国の主権損失という結果を招いた(政治力注入には妥協が必要であるため)。つまり、対反乱軍戦略での勝利はしばし政治敗北と取引交換的な関係にあり、両方同時に得ることは難しい。これがイラクで意味する所は、対反乱軍戦争終結の前にゲリラが政権を奪取し同盟軍の排除を計画する恐れがあり、結果としてそれが同盟軍の撤退という政治敗北を生みかねないという点である。政治的な勝利は対反乱軍戦略での敗北を時として必要とし、日本を含む同盟国側はこれを防ぐようイラク国家の政治経済発展に全力を注ぐ必要がある。 一方で武力鎮圧と政治力の同時活用は難しい。武力鎮圧は「破壊」を目的とするハードパワーの応用であり、WHAMは政治社会を「構築」するためのソフトパワーの例である。このふたつは両立し難い概念である。問題は、本来人民の支持を得る為に武力を減らすWHAMに、ゲリラ排除に必要な軍事力をどう統合させるかである。 更に、私は文民とではなくゲリラとの対話を提案する。最近ではイラク選挙にてシーア派少数派の政治参加が増える一方、ゲリラ内部に亀裂が生じ、特にテロを繰り返すスンニ強硬派と、その犠牲となっているシーア派の間での対立が激化しつつある。日本が対反乱軍戦争のリーダー格として取るべき政策は、人民の支持を得るための積極的な政治経済発展政策ではなく、ゲリラの合意を得るための交渉力の行使である。自衛隊はゲリラと戦うのではなく交渉し政治的合意を目指すべきである。ゲリラとの合意は非武装文民の支持なく可能で彼らを隔離する必要もない。
対反乱軍戦争と同時に、イラク内の政治経済発展は、特に撤退後のイラクにとって必要不可欠であるが、史実と現在の政情を元に対反乱軍戦争を分析する場合、私の提言は実現可能である。
*本稿を読んでコメントを下さった小池政就氏、鈴木紘平氏、栢木今日子氏に感謝致します。本稿の責任は著者にあります。 |
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