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「大学のビジネス化で大成功し教育水準も向上」 『経済界』2008年5月6日号掲載 酒井吉廣 戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員 大学はヘッジファンドも顔負けの機関投資家 日本では少子化が進んで大学も定員割れが増えている中にあって、米国では第三次ベビーブーマーが今年大学受験を向かえ、既往ピークの受験者数を記録する学校が増えた。
米国の大学教育は80年代からの本格的なビジネス化が進み、現在では世界中から学生を集める「全世界の学問の最高学府」としての地位をほぼ手中に収めた感じとなっている。実際、日本の大学や大学院と米国のそれらとを比較した場合の学生の学力は大きな差となってしまった。これは、80年代と比べれば大逆転で、米国の大学における学生への金銭的サービスの徹底という大学側の努力と、学問的な追及を進める学者へのサポートの強化という貢献者達の増加が、完全に両者の優劣を決する原動力となったと言える。
「大学のビジネス化」というと米国型資本主義が教育の世界まで浸透しているのかと受け止める向きもあるかも知れない。しかし、これはむしろ「大学の自由化」と呼ぶべきもので、優秀な先生や学生をどう集めるか、彼らの実力をどう引き上げて社会で活躍できる人材と出来るか、どれだけ多くの学術論文を発表できるかなど、大学の質の向上のための自由を実現したものと考えるべきだ。日本の学問の府とは異なって、米国の大学では学長も教授も職員もみな民間企業なみのエネルギーで大学および自分達の価値向上のためにオープンマインドの姿勢で努力しているのである。
米国の大学と言えば、日本のそれと比べて授業料が高い。有名大学の多くは私立であるが、そこの平均授業料は年間400万円程度と一般家庭ではなかなか大学に通わせることは容易ではない。これに寮費が100万から200万円程度なので自宅から通えない学生は大変である。この中でも学費の高いジョージワシントン大学となると授業料だけで五百万円を超える。大学院進学となると更に費用が嵩む。
しかし、米国では様々な奨学金制度が地域や大学ごとにあるほか、学生ローンも充実している。さらに、今年からは、年収が十万ドル以下の家庭の子息である一定レベルの成績を収める学生全員に対して授業料の何割かを免除すると発表した大学も出てくるなど、多くの米国人が学べる体制はその整備度合いが一段と進みつつある。
こうした背景として、特に注目すべき理由が二つある。一つは、中東各国やアジアなどからの寄付の増加。国際を超えた提携や各国からの学生受け入れと交換に多額の寄付をする国が増えてきた。80年代は、日本の銀行や企業が寄付をして、その代わりに職員を何名か無条件で受け入れて貰うというメリットを享受していたが、最近はその割合が増えたということになる。また、卒業生の寄付も増えており、これらの蓄積も大学経営を後押ししている。
もう一つは、大学の資金運用レベルの高さである。大手ヘッジファンドも顔負けの運用成績でハーバードやNYU、エール大学などは潤沢な資金の運用益を享受している。米国独立後で初の大学であるディキンソン等は少数精鋭のリベラルアーツ・カレッジであることから運用総額は少ないものの、その能力の高さは新聞でも紹介されるほどだ。
一流大学を維持するには強い米国が必須条件 さて、こうした大学のビジネス化の好影響として新たな現象が始まっている。従来のアイビーリーグ(米国の七つの名門私立大学)嗜好の度合いの低下と、少数精鋭で学部教育に注力するリベラルアーツ・カレッジの人気の上昇である。
勿論、ハーバードやコロンビアなどのレベルが下がっているわけではないが、大学のビジネス化で有名教授がより多くの大学に在籍するようになったこと、および将来の大学院への進学やビジネスへの進出を考えた場合に、知名度以上に在学期間中のケアの充実を重視する生徒や親が増えたことが原因のようだ。そこで、マンモス大学でも意識的にリベラルアーツ・カレッジ型の特別プログラムを作って優秀な学生をより多く引きつけようとする動きを始めている。米国のおける大学経営のビジネス化の成功は、米国の大学を世界的に魅力的なものに大変身させるとともに、それぞれの特殊性に一段と磨きをかけて学生を迎え入れるものに発展させた。
しかし、米国の大学とて死角が全くないわけではない。英国やフランスの歴史のある名門大学の改革、日本の大学の改革など、かつての優秀大学を抱える国の梃入れが、現在の米国の大学の地位を脅かす可能性が常に存在していることである。
こうした懸念に対しては、これらの国々との間で共同単位科目を設置するとか、交換留学生度の一段の充実など、ライバルではなく仲間として交流を進めることで乗り切ろうとの対策が打たれているが、学生がどこをメインに選ぶかは、その時代にあったものである必要がある。 米国の大学にとって、それはウォールストリートの繁栄継続であり、強い政治力の維持、世界最高水準の医療技術の一段の進歩など、つまり米国がナンバーワンの覇権国であることなのである。
各大学は、今年度の寄付金集めでは多くが過去最高レベルの額を集めているが、来年度は未知数である。順風満帆の米国の大学にとって、サブプライム問題などで揺れる米国経済の下、将来を示唆する年となる9月からの新年度は重要な経営の節目となりそうだ。■
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